どれですか
どれですか
竜軌曰く、〝グラビア雑誌を見たがっていた〟蘭は、開けた引戸の横をものすごい勢いで飛び出して行った少女に驚いた。華やかな美貌を傾ける。
「…美羽様?」
「蘭、早くあいつを追えっ!!どんな手を使っても構わん、絶対に逃がすなっ」
頭をかなり痛そうに押さえた竜軌がベッドの上から喚く。布団には冊子が散らかっている。
「何ゆえそのような、悪役みたいな命令を出されるのですか、……ナースを口説いていたことがバレたんですか?」
「莫迦、違うっ、別件だ!」
「じゃあ、あちらですか、見舞いに来られた滝川夫人と良い感じになってしまわれた件ですか。上様は昔から熟女に弱いとは言え、あれはどうかと私はかねがね思っていて」
「違う、それでもない!お前、もうそれ以上、口を開くな!!」
「他のどれがバレてしまったのですか、上様!そこを知らないことには私としましても、美羽様を宥めようが、あ、り、」
〝どうぞ。続けてちょうだい?蘭〟
廊下を走って行った美羽が光速で取って返し、いつの間にか蘭の横に佇んでいた。
天使のような微笑みを湛えている。
豪華な個室は、恐ろしいほどの静寂に包まれた。




