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おいていく人

おいていく人


 打ち寄せては返す波を、美羽は見ていた。

 竜軌と出逢う以前のような表情で、砂を踏む。

「美羽」

 砂浜に靴跡を残し、星が隣に立っていた。いつも気付くと、隣にいてくれるのが星だった。ふ、と気持ちが和む。

 一人になりたいと思っていたが、彼ならば例外だ。

「…新庄さんのお見舞いに行ってないって、聞いたけど」

 美羽は頷く。言われそうな気はしていた。

 一人で海を眺めるつもりだったので、メモ帳とペンは持って来ていない。

 すると、星がそれらを美羽の前に出した。彼は美羽と会話する為にここへ来たのだ。

 美羽はメモ帳とペンを数秒、見つめてから受け取った。

〝星君だったら、どうした?〟

「ストーカーのことかい?」

 美羽が頷く。下を向いた弾みに小さな茶色っぽい蟹が歩くのが見えた。

「僕なら警察に任せるよ」

〝そうよね。それが普通だわ。まともよ〟

「…警察に任せて。そしてきっと僕は、美羽を守れないんだろう」

 美羽が星の顔を見上げる。昔は、星が美羽の生活の多くを占めていた。

〝竜軌の弁護?〟

 星は海に目を遣り、一つ一つの言葉を慎重に口にした。

「そうかもしれない。彼は朝林がどれだけ狡猾な男かを、よく知っていたんだろう。なまなかなやり方では美羽を守れない。そう、考えたんだ」

 女性には強い抵抗と反発を感じられるであろう手段を選んだ竜軌の、美羽を守ろうとした執念に、それを成し遂げた行動力に、星は同じ男として密かに敬服していた。

〝そう考えて、自分の命を、軽く扱ったの?〟

 男は男を庇うものだと、美羽は竜軌も星も腹立たしく思った。竜軌を良く思っていなかった筈の星でさえそうなのだ。美羽には愚かな仲間意識と思えた。

「…美羽」

〝そして、私が、一人残されても構わないと思ったんだわ〟

「それは違うと思うよ」

 美羽は話が通じない、と言うようにかぶりを振る。

〝それが真実よ〟

 星は黙った。

 これ以上、自分に言えることは何も無い。

 美羽の真実を否定するも肯定するも、異なる真実の側面に光を当てるも、それは竜軌の役割なのだ。



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