神頼み
神頼み
動脈が傷ついているので出血が激しい。輸血の必要があるがこの病院には今、AB型の血液のストックが少なく、と医師が言う。
無表情、起伏の無い声で。
こんな時に何を、と真白は医師に食って掛かりそうになった。
だがその前に、美羽が真白の身体を揺さぶる。
「―――――美羽さん、AB?」
美羽は激しく頷いた。
医師の無表情が微かに動く。
「では、献血のご協力をお願い出来ますか。その前に幾つか、質問に答えていただきますが。どうぞ、こちらへ」
美羽はまた頷き、医師について行った。
竜軌は瞼を押し上げた。人の気配が感じられない。麻酔が効いている筈なのに、意識が明瞭に覚醒している。
打ち合わせ通り、彼が来たのだ。
酸素吸入器が邪魔だ。
これでは目の前に立つ赤い髪の青年と会話が出来ない。
そう思っていると、渡辺定行が近付き、外してくれた。
一時的には、有り難いことだ。
「……不審と悟られんようにやれ」
舌が思うように回らず、か細い声しか出ないのが癪に障る。
「僕の属性は火だから、ちょっと痛いよ?泣かないでね」
「ほざけ。傷痕はなるべく残さんようにしろ」
「へえ、意外。気にするんだ」
「美羽が見た時、気にするだろうが」
「ああね、そゆこと。見られる時、来るの?」
竜軌はにやりと笑った。もしかしたら定行には、片頬が引きつったようにしか見えていないかもしれない。
「当たり前だ」
「ふうん?じゃ、ちゃっちゃとやるよ。これで君とは貸し借り無しだ」
「お前に貸しなどあったか?」
「おや、謙虚だこと」




