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脚本家は呟く
脚本家は呟く
美羽の半身を抱えて、真白はまだ、現状を呑み込めないでいた。
ICU。
集中治療室の前の、硬い長椅子に座り。
知略に長け、傲慢で、この世で最後まで生き残りそうな男が今、死にかけている。
(嘘でしょう、先輩)
間違っても斎藤義龍などに遅れを取るような人間ではない。
そして、それは実際その通りなのだと、美羽によって知らされた。
刺されて倒れながら、美羽の耳元で竜軌が囁いた言葉。
〝シナリオに沿っている〟
(莫迦なことを。莫迦なことを)
誰の目にも朝林秀比呂を確実に犯罪者と見なさせる為、自分を囮にしたのだ。
美羽の気も知らず。
「真白」
呼びかける、緑の目を持つ兄に低い声で問う。
「…剣護。知ってたの?」
「すまん。美羽さんを、守りたいと言われて」
「私が邪魔しないように、今日は近付かないように仕向けたのね」
「……」
真白の目に涙が盛り上がる。
「身体を守っても!心を守らずにどうすると言うの!」
「…しろ」
「万一のことがあったら、先輩を許さないわ。私、あの人を許さないから」
美羽の肩を強く抱き、真白は涙を落とした。




