果たされた約束
果たされた約束
美羽の頭の横を、竜軌の頭が横切り、ゆっくり背中のほうへと落下していく。
赤い色が見える。どうして。
今、竜軌はエクステを外しているのに。
「…りゅうきいっ!!いやああああ」
甲高く、誰かが叫ぶ。
美羽はそれを自分の声だとは解っていなかった。
竜軌が倒れた向こうには、刃物を手にした朝林秀比呂。刃からは赤いものが滴り落ちる。
アスファルトに落ちる、竜軌の血液。
竜の血。
「私の蝶。私の蝶。私の蝶―――――――」
それだけを繰り返す彼を江藤怜、坊丸、力丸らが取り押さえ、兵庫が携帯で早口に救急車を呼んでいる。
押し寄せる波のような人々のざわめき。
警察、救急車、と言う声が晴天の下に飛び交う。
美羽は麻の生地から溢れて止まらない血を、ハンカチとロングスカートを使い押さえていた。
(止まらない。血が、止まらないわ、竜軌)
駆け寄った門倉剣護が美羽が押さえていた傷口の上から、予め用意しておいたバスタオルを更に押し付ける。竜軌の呻き声が聴こえた。
その間も、美羽に竜軌の名を叫び続けている自覚は無かった。
こんな筈は無いのだ。
こんな筈は無いのだ。
竜軌は、世界で写真を撮りながら、美羽と生きて行くのだから。




