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それを幸福と
それを幸福と
その男は政略結婚の相手だった。
帰蝶はもう、疲れ果てていた。
無理矢理に組み伏せられ、苛まれることに。
織田上総介信長も所詮は虎狼の類よと思いながら、父の命じるままに嫁いだ。
これで少なくとも兄からは逃れられる。
極めて高飛車に、気位高く振る舞うことで、自分を守ろうとした。
周囲の呆れ、突き放すような眼差し。
どうせ誰にも解るまいと思った。
解るまい、と。
最も突き放した筈の信長が、真っ先に帰蝶を見抜いた。
傷の深さを知り、守ってやると言った。
世界は変わった。
空は青く、花は香り、鳥が美しく囀る。
このようであったかと驚いた。
初めて、望み、望まれて、男と結ばれた。
名を呼ばれ、指が触れ、唇が溶けた。
身体も、溶けた。
帰蝶、お前は美しい。




