※彼の名前
これまでのあらすじ。
朝林秀比呂の謀略により、新潟の児童養護施設に戻ることになった美羽。
竜軌は施設・ひまわりに出向き、自らに貼られたレッテルを除こうとする。
そんな中、施設近くの海岸を散歩する竜軌と美羽は謎の男たちの襲撃に遭う。坊丸、力丸、兵庫らと共に彼らを撃退した竜軌は、ある思惑を抱いていた。
竜軌らと異なり前生の記憶が無い美羽だが、神器・六王には感じるものがあった。
彼の名前
六王は確かに、最後まで信長を守ろうとした。
帰蝶はそれを、自らの目で見ていた。
信長を守ろうとする六王を、彼女は同志のようにも思っていたのだ。
六王を抱えて泣き始めた美羽を、竜軌は黙って見ていた。
蝶の心の琴線に触れたものが、何かあったのだろうと思った。
六王が美羽に、泣くなと望む声を耳に聴きながら。
「落ち着いたか?」
六王を闇に帰してから、髪を撫でながら竜軌が尋ねると、美羽は頷いた。
〝ねえ、竜軌〟
「何だ」
〝あなたの前世は、有名な人?〟
「そこそこ知られてはいる」
〝その奥さんだった、私も?〟
「そうだな」
〝誰かは教えてくれないのね〟
「思い出さないで良いと言っただろう」
〝私は知りたいのよ〟
「…美羽」
名を呼ばれ、ついばむようにキスされる。
「―――――――――思い出さないでくれ。俺の頼みだ」
それでも美羽は、退けない思いで訊いた。
〝理由を教えてちょうだい〟
「全てを思い出せばお前は苦しむ。俺はそれを見たくない」
自分が苦しそうな顔で竜軌は告げた。




