勝つ花
勝つ花
六月十日、真白の誕生日に婚姻届を役所に提出し、成瀬荒太と真白は夫婦となった。
荒太は真白を愛していた。有り体に言えば他の人間はどうでも良いくらいの心境だった。
そして普段はおっとりとした物腰の妻が、ここぞと言う時にはとてつもなく頑固になることを、よく知っていた。
多くの場合、そんな時の彼女には勝てないことも。
だが彼は抗おうとした。
「俺は反対だ。上杉美羽の付き添いなら俺一人で事足りる!わざわざ真白さんが出向くことはない。――――――…身体が丈夫じゃないのに」
「荒太君。憶えてるでしょう、濃姫様のご気性。…根は素直だけど難しい方だわ。男性ではなくて、誰か女性が一人、彼女に寄り添うべきよ。過去の事件のことを考えても、そのほうが美羽さんは安心出来ると思うの。水恵だって、荒太君より私のほうが化けやすいわ。そうすれば大学の出席日数も問題ない。二人同時に大学を数日間、休む訳には行かないもの」
「新潟だよ?美羽さんを支える前に、真白さんが寝込んだらどうするんだ。足手まといにしかならないよ」
気が急く余り、荒太は言い過ぎたと感じた。
真白が、く、と唇を噛む。
「……具合が悪くなれば一人で離れて、ちゃんとした場所で休むわ。良くなるまで。もう大人だもの。黒羽森の足は引っ張らない。荒太君にも迷惑はかけないから」
夫が息を吐いた。
妻に降参する溜め息だった。
「ごめん。違う。迷惑かけても良いんだ。…心配なだけだ」
「うん。解ってる。私もごめんなさい、我が儘を言って」
「――――――――体調が悪いと感じたら、すぐに俺に連絡して。黒羽森にも隠さず言うんだよ。あと、濃姫が鼻持ちならない小娘で真白さんを困らせるようなら、さっさと黒羽森に押し付けて別行動で帰って来るように。どうせ真白さんには出来ないだろうけどさ」
「うん。ありがとう」
やはり、花がほころんだ。