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泡沫
泡沫
ほいと気軽に手渡された槍を両手に持った帰蝶は、そのずしりとした重さに驚いた。
取り落しそうになって、慌てて持ち直す。
金襴緞子の打掛よりも、はるかに重い。
〝無理をするな。女の手には余る〟
〝けれど、これは綺麗だ。とても〟
帰蝶は愛おしむように目を細めて、六王を見た。
〝他の人間には、そうそう触らせぬのだぞ?〟
恩着せがましく信長が言う。お前が特別なのだ、と。
〝解っている。ありがとう〟
〝うっかり鴨居に刃先を引っ掛けたこともある。木に埋もれた刃が中々、抜けなくてな。往生した〟
帰蝶は微笑んで、六王の柄に唇を寄せた。
(どうか、私の信長を守っておくれ)
〝おい、行き過ぎではないのか〟
信長が不平を言う。
〝なぜ?信長の、命を守ってくれるのに。私の大事な、信長の〟
笑顔でそう言うと、信長は沈黙した。




