神器
神器
六王を見たい、と美羽が竜軌にせがんだ。
山尾はまた散歩に出たのか姿が見えず、真白の付き添い無しでも竜軌が美羽の部屋に入ることを認められた。ひまわりの人間が少しずつ竜軌を受け容れつつある空気を感じ、美羽の気持ちも自然、なだらかなものになっていた。
このまま穏やかに、全てが元に戻れば良いと思う。
「何でだ」
〝キレイだったから。りくおう。六王?を、持った竜軌、かっこよかった〟
六王の漢字を教えてやりながら、竜軌はメモ帳を読む。
それから、ベッドから立ち上がった。
「おい、六王、起きろ。美羽がお前に会いたがってる。褒められてるぞ、良かったな」
すると淡く白い、高貴な光が何も無い空間に滲む。
竜軌の声に応じて、彼の右手に黒い素槍が姿を見せた。間違っても槍の先がベッドに座る美羽を傷つけないように刃を床に向け、竜軌が慎重に持つ。
部屋に差す陽光を弾き、輝く螺鈿。目を寄せて見れば螺鈿だけでなく、細かな金細工も施してあると気付く。微細であっても漆黒に映える金が美しい。
〝この金色の飾り、何?〟
「松の葉と、彩雲と、宝珠だ。どれも縁起物だな」
〝さいうん?ほうじゅ?〟
「雲が五色やら色んな色に見える気象現象があってな。それを昔から彩雲とか瑞雲とか呼んで、吉兆として有難がってたんだ。宝珠は吉祥天とか竜が手に持ってたりするな。願いが何でも叶うってやつだ」
〝竜の持つ、あれなの。竜軌にお似合い。キレイだわ、やっぱり〟
「…機嫌が良いな」
美羽が自分を指差すと、違う、と竜軌が首を横に振る。
「六王が、だ」
美羽がぱちぱち瞬きする。
「門倉から聴いただろう。神器は、生ける武器だ。意思がある」
〝性格も?人みたいに?〟
「ああ」
〝六王は、どういう性格?〟
「プライドの高いぐうたら。神器の中でも力はぴか一だが、しょっちゅう寝とぼけている」
美羽が竜軌と六王を見比べる。
〝怒ったんじゃないの?〟
「怒ったな。美羽、撫でてやれ」
言われて、黒く、滑らかで艶やかな柄に触れて、撫でてみる。
山尾の毛並とはまた異なる、触り心地の良さ。
刀身がきら、と光を放った気がした。
「そら、機嫌が直った。こいつはお前が好きなんだ」
竜軌が笑う。
〝本当?〟
竜軌に似た、綺麗な武器に好かれていると聴いて、美羽は喜んだ。
「ああ。……多分、昔からそうだったんだろうな」
昔から。
竜軌の言葉に、蘇る音と、映像がある。
槍は、間合いが長いぶん他の武器より有利だが、城内や邸内での戦いには向かんのだ。
六王を自分の手に持たせて、低い声でそう語ったあの人。




