心配することはない
心配することはない
暴漢たちに襲われた、ということで、ひまわりに戻ると警察が美羽と竜軌を待っていた。律子や信夫、他のひまわりの職員は、顔を青くしていた。
竜軌と警察署に赴き、美羽は事情説明をした。
竜軌に、訊かれたことにはこう答えろ、と教わった通りに。
夕方には解放され、竜軌とひまわりまでの道のりを辿った。
何が、どのような流れで起こっているのか。これからどこへ向かおうとしているのか。先には穏便な終息地点が待っているのか。
中心にいる筈の美羽にそれが解らない。
けれど竜軌には、きっとそれが見えている。
(見えている、どころか)
事態を裏で動かしている、真の指揮者。
マエストロ。
多くを一人、胸に秘め、素知らぬ顔で美羽に優しく笑っている。
(それがあなたなのだろうけれど)
美羽が立ち止まると、竜軌も立ち止まった。
小さな女の子と男の子が二人、横を走り抜けて行く。
家路を急いでいるのだろうか。
陽が沈む気配を見せると、子供も大人も、皆、人は焦る。
「どうした、美羽」
〝竜軌。何か、考えてる?怖いこと〟
「いいや」
〝本当に?〟
「ああ、美羽。お前が心配することは何も無い、大丈夫だ」
笑いかける竜軌の顔を見て、けれどもう、美羽にも解っている。
片腕を失っても、心臓に穴が開いても。
竜軌は全力で嘘を吐く。
心配することは無い、大丈夫だと。




