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手の上で
手の上で
美羽は竜軌の左肩に乗っていた。
襲撃者と兵庫らが去ったあと、スーツの左肩に抱え上げられたのだ。
ザク、ザク、と、いつもより大きく重く、竜軌の革靴が響く。
(た、高い、高い、怖い)
たくましい二本の腕でしっかり固定されてはいるのだが、つい竜軌の頭にしがみつく。サラ、とした黒髪の頭をがっしと掴む。
「おい、痛い」
(な、何で、竜軌?)
空がいつもよりずっと近い。
みゃあみゃあと鳴く海猫に手が届きそうだ。こちらにおいで、と呼ばれているようだ。
強い風を感じる、自由な高みは怖い。
「これを覗いてる奴が、嫉妬して歯噛みするようにな」
(覗いてる奴?)
海岸を散歩する人の注目なら、嫌と言うほどに浴びているが。
「お前を狙う変態のことだ」
(変態。…あの人が?)
これを見ていると言うのだろうか。
「必ず見ている。美羽。お前が、愛する男を」
竜軌はどこ吹くとも解らぬ風のように笑む。
長くうねる黒髪に顔を撫でられながら。
嫉妬に狂って、踊れ。義龍。




