終わって、始まる
終わって、始まる
竜軌たちが、命を奪わずにことを収めようとしたとは、襲撃者たちが皆、地に打ち臥してから判った。兵庫の持つ鎌の刃にも、血の赤は無い。
美羽は息を吐いた。彼らが人の命を奪うと考えると、怖い。カーブを描く内側の刃を兵庫は使わなかったのだ。専ら鈍器のように扱ったのだろう。
竜軌の手にしていた六王も、坊丸らの刀もふいと消える。
それから場面は一転して、闇から海岸に戻った。
波音が耳に戻る。潮の香りが戻る。
「あとはお前らに任せる。警察への事情説明は、よくよく言葉を選べ。斑鳩を介せば話も通りやすかろう」
竜軌は平然とした顔で、主に兵庫を見ながら言った。
言う、より、命じる、のほうが似つかわしい声で。
「丸投げですか、新庄さん」
兵庫は、竜軌の下請けの下請けのような立場なのだ、と先日、冗談のように美羽に言っていた。間に真白たちと言うワンクッションが入るから、蘭たちほど竜軌に服従しないということなのだろうか。
「俺は美羽とデート中だ」
渋面で苦情を言った兵庫に対し、竜軌がこの理由では仕方あるまい、と堂々と掲げた台詞に、美羽は何ともいたたまれない気分になった。
兵庫のシャツの袖を引き、メモ帳を見せる。
〝ごめんなさい〟
「…いいえ」
〝いつも、ガード、してくれてるのね、ありがとう〟
「主命ですから」
兵庫は軽く笑って言った。
〝坊丸と、力丸も、ありがとう。心配、してくれたのね〟
少年らも破顔した。剣を振るっていたのと同じ人物とは思えない、年相応の笑顔だった。
それから美羽は竜軌に飛びつく。本当は一番最初に飛びつきたかった。
スーツ姿で槍を振るい、守ってくれてありがとう、と。
届いただろうか。




