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無血

無血


 峰打ちはやりにくいな、と力丸は考えながら神器・清流(せいる)の柄を握っていた。

 乱世に生きていたころ、刃を交えればそれは必ずどちらかが命を落とす時で、生かしたまま倒すなど考えたこともなかった。力丸に言わせれば、悠長に過ぎる。獲れる命を獲らないなど、むしろ相手に対する侮辱ではないか。そう思う。

 今生になってから、兄たちと共にその技術を会得するのには手間取った。峰打ちだから優しく相手を気絶させるだけ、などと思うのは大間違いで、やり方と腕によっては重症を負わせることも可能なのだ。しかも力加減を誤れば刃が破損する。相当の剣客でなければ出来ない芸当を、それでも物にしたのは、乱世を生き、死んだ者としての意地があったからだ。

(平和のぬるま湯に生まれた技術を、俺がこなせずに済ませるか)

 燃える本能寺の中、主君の為に討ち死にした力丸の一念だった。

 敵の腹に返した刃をめり込ませれば、大きく開いた口から唾液が飛んで来る。

 今のは骨が二、三本はいったな、と頭の隅で冷静に思う。

 坊丸もまた、弟に負けず、美羽を守るべく戦っていた。

 神器・雨煙(うえん)で逆袈裟に斬りつける。

 血が流れないことに、違和感がある。力丸と同じく、坊丸にとっても戦場、即ち死地である。相手、もしくは自分の。

 慎重な力加減で胴を払う。弱かったか、と思う。

 嘗てはここで倒れた敵に刃を突き刺していたが、今はそれが出来ない。

 そのように命じられている。

 雨煙の雨色の柄を叩き込むと、敵は動かなくなった。

 それでもやはり、血の匂いのしない戦場、というものに戸惑うのだ。



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