六王
六王
明らかに、穏やかではない。
竜軌が美羽の身を寄せ、力みのない声で呼ぶ。
「起きろ、六王」
竜軌の手に長い素槍が現れて、美羽は驚く。
(りくおう。…りくおう?)
何だろう、いつかどこかで、聞いたような名前だが。
本物の槍を見るのは初めてだ。こんなに長くて大きいのか。
そして、とても重そうだ。
(でも、綺麗な槍)
漆黒の柄に、青く白く、螺鈿細工の貝が浮かび上がり、光る。
きらり、と。
気高い竜軌によく似合う。
しかしこれもやはり、どこかで見たことがある気がする。
既視感がある。
竜軌は美羽の肩を左手で抱き、右腕一本でぶうん、と二、三回、敵を威嚇するように、槍を頭上高く振り回した。男たちにざわめくような空気が走る。
美羽に近寄れば六王の餌食にする、という意思表示だ。
三メートルはありそうな槍を軽々と操る竜軌に、美羽も目を丸くしていた。
たくましいとは思っていたが、改めて彼の腕力を評価し直す。
竜軌の目は襲撃者たちの構えなどを、一瞥で観察した。
(プロを雇ったか。賢明と言うべきかな)
「坊丸、力丸!」
竜軌が高らかに呼ぶと、少年と青年が闇から姿を現した。




