欲しがり
欲しがり
「門倉。お前のしている推測、真白には言うな」
『あんたさ、それ、当たってる、って言うも同然だぜ』
「真白に阻止されるのは困る」
『俺に、あいつの泣き顔を見過ごせと?』
「そうだ。俺は美羽を守らねばならん。……頼む」
『―――――失敗したら、あんたを許さねえぞ』
〝竜軌、さっきの電話〟
波打ち際を歩きながら、美羽がメモ帳を見せる。
「門倉剣護からだ」
〝真白さんのお話?〟
竜軌が美羽の顔を見る。
「離れて話したが」
〝聴こえたんじゃなくて。剣護さん、真白さんのこと、大事にしてるから〟
「…そうだな」
〝難しいお話してた?〟
「どうしてそう思う」
〝顔がかたい〟
ザザ、と寄せる波音を背景に、竜軌が目を細める。
「少しな。美羽、綺麗だな」
今日、竜軌と海岸を歩くならお洒落をしなければならないと思い、美羽は昨日の夜、ベッドや床に洋服を広げて、山尾の意見も聴きながら、今穿いている紺のフレアースカートと白いレースブラウスを選んだ。それにシアンのサンダルを合わせる。軽いフレアースカートの生地は二重で、透けた紺色の下に、花柄の生地が見えるようになっている。海から吹く風に紺色の生地がひらひらと舞い、翻り、スカートの魅力が遺憾無く発揮されている。胡蝶の間の桐箪笥に入っていた衣類は、なるべく持って行くよう、真白に助言された。
竜軌は今日も、スーツ姿だ。
お洒落して良かったと思う。
サンダルのハイヒールが砂に埋もれて時々よろめく美羽を、竜軌がす、と支えてくれるのが嬉しい。見る人に、あの二人はお似合いだと思ってもらえるなら、それも嬉しい。
〝ステキでしょ、このお洋服〟
「それを着てる、お前が綺麗だと言っている」
そんな台詞を真顔で言う竜軌は、すごいと美羽は思う。しかし他の女性にもそんな風だったのだろうかと考えると、嫌な気分になる。自分でもストレートじゃない、可愛げが足りないと感じるのはこんな時だ。
〝竜軌、さらっとそんなこと言うのね〟
「事実だから」
それも嬉しいが、そこは、お前が相手だから、と言って欲しかった。
もっともっと、自分は竜軌の特別なのだと思わせて欲しい。
くす、と竜軌が笑う。
「美羽。お前が相手だからだ」
思いが顔に出ていたらしい。美羽は恥ずかしくなって俯く。
「美羽?本当だぞ。お前が相手だからだ」
もう良い、もう良い、と美羽は両手を振る。
何て欲張りな女だと、呆れられそうで怖い。




