表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/663

ミルフィーユ

ミルフィーユ


 それから時間をかけ十分に美羽の唇を味わって、満足した竜軌は、今日はこれで帰ると告げた。

「そんな顔をするな。俺だって、すぐにお前を攫って帰りたいところなんだ。だが今、犯罪者のレッテルを貼られる訳にはいかない。ただでさえグレーゾーンにいるからな。明日、また来る。職員の許可が下りたら、一緒に海岸を散歩しよう」

 家に連れ帰ってくれるのではないのだ。

 項垂れた美羽は、気になっていたことを尋ねた。

〝竜軌。私、臭くなかった?〟

 竜軌が何のことだと言うように首を右に傾げる。

〝昨日、お風呂に入ってない、から〟

 今度は首を左に傾げる。立派なスーツを着た竜軌に対し、美羽は恥じ入る思いで続きを書いた。

〝髪も、洗えてないし。べたついてなかった?〟

「いや。そうなのか?気付かなかった。俺はお前の匂いなら、大概、何でも良いから」

 ざっくばらんとも取れる物言いが、とても嬉しかった。

 美羽の気持ちとは別に、ここでは毎日、入浴出来ないのか、と竜軌は眉をひそめて重大事のように言う。美羽のいる環境を卑しむのではなく、気遣い、慮っているのだ。

 帰したくないと強く思う。

 ぎゅうぎゅうとスーツに抱きついた。大好きなこの竜を監禁してしまいたい。

「おい、美羽。物騒なこと考えてないか」

 にこやかに首を横に振る。私は嘘吐き、と思いながら。

「…コアラみたいにお前をくっつかせて帰るのは無理だぞ。…それは良いアイデア、みたいに顔を輝かせるな、莫迦。困った奴だな」

 困った奴だと言いながら、髪を優しく撫でてくれる。「竜を監禁」プランがまたもや美羽の中で鎌首をもたげる。竜軌が山尾のように、身体のサイズを調節出来れば良いのにと思う。猫のサイズになった竜軌であれば、後顧の憂いなく抱っこしてベッドで眠れる。腕の中でジタバタしても逃がさない。

「―――――何か怖いからもう帰る。このままいると、お前を襲うか襲われるかしそうだ」

〝そんなことしないのに〟

 白々しい顔をしてまた嘘を吐いた。

 竜軌といると、美羽はどんどん嘘を重ねてしまう。

 恋をすると、人は清らかで幸福な方向にのみ、踏み出すものだとばかり思っていた。

 罪人に近しくなるということも、あるのだろうか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ