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樫の扉

樫の扉


 書斎の分厚い樫の扉がノックもされずに荒っぽく開かれた時、そこから息子が姿を現すことを新庄孝彰(しんじょうたかあき)は疑わなかった。幼少期に息子に教え込んだ礼儀作法は、成長過程のどこかで無下にも置き去りにされてしまったようだ。

〝そんなものは要らない〟

 長ずるにつれ、自分が息子に与えようとするもの、身につけさせようとするもの、その多くを息子はすげなく拒絶し、切り捨てて来た。

「…久しぶりだな。竜軌。お前が私に顔を見せるとは。厄介ごとでないことを願うよ」

「期待通りで悪いな。一つ、頼まれてくれ」

 温厚な孝彰の双眸が細まる。

「何をだろう」

「養護施設から娘を一人、引き取って欲しい」

 孝彰は深い息を吐いて、ギシリと音を鳴らし肘掛け椅子からゆっくり立ち上がった。

「教えた筈だ、竜軌。人は望めば、相応の代償も払わねばならん。その、安くはない行為の見返りに、お前は私に何をもたらすことが出来ると言うのだ?」

「孤児を引き取ったとなれば美談だ、あんたの損にはならんだろう」

 孝彰が緩く首を横に振る。

「解っていないな…。これ見よがしにそんなことをすれば、却ってマスコミの良い餌食だ。仮に私がそんなことをしてみろ。彼らはこぞって書き立てるだろう。曰く、〝卑しい政治家の売名行為〟だとな」

「孤児が過去のトラウマにより声の出ない娘でもか?」

「関係ないな。むしろ、より性質が悪い」

「―――――――――損得勘定か」

「それだけではないが。意外だよ。お前が今更、それを言うのかね?」

 竜軌はジーンズの両ポケットに手を突っ込んだまま、虚空を見据えるように言った。

「…ならあんたの流儀に則ってやろう。今度の衆議員選。あんたの対抗馬の金の出所を探ってみろ。ありきたりだが面白いことが判る。記事にするならフリーライターの河本直(こうもとただし)に書かせると良い。その手合いでは実績がある」



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