表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/663

審判

審判


 竜軌を見た美羽の視界に、秀比呂は入っていなかった。

「美羽」

 異口同音に二人の男が呼んでも、竜軌の声しか聴こえなかった。

 スリッパを鳴らし走り寄って、麻のスーツに飛びつく。

 うんと背伸びして首の下に頬擦りする。

(いつ来たの。どうして。竜軌。迎えに?やっと逢えた。竜軌。竜軌)

 竜軌は微笑み、美羽の頭を撫でた。


 拳を震わせ、目を血走らせて。

 朝林秀比呂は竜軌と美羽を見ていた。美羽の頭を撫でながら竜軌も、素顔を晒した狼の顔を見た。そしてごくごく僅かに、唇の片端を上げた。秀比呂にだけ、判るように。


 信夫もまた、秀比呂と、竜軌と美羽の二人を見ていた。

 竜軌が信夫を見て尋ねる。

「彼女と、話をしても良いでしょうか。何でしたら真白さんにも、付き添ってもらいますので」

 美羽と一緒にホールに足を運んだ真白が頷く。

「ぜひ。冬木さん。新庄先輩の言葉は事実です。その男は、昨日、美羽さんに近付こうとした、朝林秀比呂教授。東京から彼女を追い回して来たストーカーです」

 変質者の話、真白がそれを撃退したと言う話は、信夫も聴かされていた。

 教授。ストーカーの某大学教授、と書かれた記事を思い出す。

 真白の言に、美羽も首を強く縦に振っている。秀比呂に向け、警戒心を漲らせた顔つきをして竜軌にしがみついている。

 視覚と聴覚で得た判断材料を元にして、この場で、美羽を擁護する立場の人間として、言えることを信夫は言った。

「――――――お入りください、新庄さん。…朝林さん、ですか。申し訳ありませんが、本日のところはお引き取りください」


 気位の高いペルシャ猫のような少女が、信じ切った笑顔を、輝くような笑顔を竜軌に見せながら、真白と部屋に去る様子を信夫は見届けた。家族のように和やかな空気が、三人を取り巻いていた。

 まだ玄関ホールに立ち尽くす秀比呂を窺う。

 彼は、今では落ち着き払った表情をしているかに見えた。

 だがなぜか、信夫は彼の温厚な顔を見て、悪鬼、と言う言葉を思い浮かべた。

 秀比呂は敵、なのだろうか。性急に決めつけることは出来ない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ