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婚約者たち
婚約者たち
そして竜軌は静かな口調で、それに異を唱えた。
「それは、おかしいですね」
信夫と秀比呂が同時に竜軌を見る。
グレーの麻のスーツに、若草色のネクタイを締めた黒髪の青年は、信夫の目に、秀比呂に劣らず紳士然として見えた。
その為、彼が新庄竜軌だと識別するまでに、数秒を要した。
こんな男だっただろうかと思う。
新庄邸で会った時に目についた、赤いエクステが今は無い。
好青年の模範のような立ち姿だ。
それから、秀比呂の身体から放たれる、険しい空気を感じた。
竜軌は静かに、真実味を帯びた口調で語った。
真実を。
「美羽の婚約者は僕です。その男は、彼女のストーカーだ。冬木さん、警察に連絡をお願いします」
「出鱈目を!お前が美羽を虐待していたんだろうが」
信夫は混乱した。竜軌が言うように警察に連絡するにも、美羽の婚約者を自称する二人の男性の、どちらの言い分に沿った通報をすれば良いのか。
ともかく、美羽本人に確認しようと思った。美羽は今、真白と一緒に過ごしている筈だ。




