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 竜軌が連絡をくれたのだと、美羽が嬉しそうに頬を染めて教えて来た時、田沼律子は複雑な気持ちになった。

 だから昨日は悪夢も見なかったの、律子先生、と笑顔で。

 それから美羽は、律子が尋ねるままに、竜軌について語った。

 砂糖菓子を食べているような甘い顔は、恋する少女そのものだった。

 これをどう捉えれば良いのだろう、と律子は頭を悩ませた。

 美羽の顔は、話は、自分に性的虐待を行った人物について語るものではない。律子自身にもよく覚えのある、純粋な恋愛感情しかそこには見えない。夫との間に、嘗て育んだもの。煌めくガラスのように尊く思い、大事にしていたその感情は、今も忘れていない。

 そして律子の知る限り、美羽は容易く男にたぶらかされたり、唆されたりするようなやわな女の子ではない。勝ち気でプライドが高く、思い遣りはあるが、背負う過去ゆえに愛情に対しては非常に懐疑的だった。中学生のころには自分たちにもかなり反抗し、手を焼かされた。顔立ちは綺麗だが、男から見ればとても扱いが難しい少女の筈だ。

〝竜軌は私を守ってくれるから、私も竜軌を守れるようになりたい〟

 美羽にそうまで言わせる男が、彼女を害したと言うのだろうか。律子の中で、虐待に関する話の信憑性が揺らぎ始めていた。

「…美羽ちゃんは、あの家に、戻りたいの?」

 美羽は大きく頷く。長い黒髪が、弾みで揺れるくらい。

「―――――…竜軌さんが、好き?」

 差し出すように、優しい声で尋ねた。

 美羽は大きく潤んだ瞳で律子を見つめ、ゆっくり、力を籠めて、顎を引いた。



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