図面を見て首をひねる
図面を見て首をひねる
兵庫の盃に酒を注いで、剣護自身も、ぐい、と地酒を呷る。
真白と斑鳩が泊まる宿に、彼らも居座ることにした。
(陣を敷く、と言うべきか)
緑の目が思案に瞬く。
今夜は月が遠い、と別のことも考える。
「荒太、蘭丸、市枝さんは、とりあえず居残り組だ。次郎は来る。ひまわりに面が割れてないしな。素晴らしきかな、大学の夏休み!ってやつだ。あいつは院に進むから就活もしねえし。坊丸、力丸は保留。場合によっては、動いてもらう。その心積もりはしとくように新庄からも言われてるだろう」
兵庫も剣護の盃に酒器を傾ける。
「撃退するだけでは、埒が明きませんよ」
「だから殺す―――――か?」
身軽でシニカルな口調が持ち味の忍びの目が、怜悧に光る。
「他にありますか。改心を求めるだけ無駄な人種が世の中にはいるもんです。おまけにあれは、諦めることを知らない」
忍びってのは、すぐにダークでハードな方向に思考と行動が向かうよな、と剣護は思う。一見、浮雲のような兵庫までがその例に洩れない。
そんなんじゃ要らん業を背負っちまうよ、幸せが遠のくよ、と忠告してやりたくなる。
「…俺はな、あのお利口過ぎる頭の持ち主の新庄が、それを考えてるとは思えないんだよ。今が戦国の昔ならいざ知らず。だってほら、野蛮じゃん、現代人的には、その発想」
「と、言うと?」
白い盃を軽く回して、揺れる透明の液体を、剣護が見る。
兵庫も答えを見出す眼差しでそれを見た。
「さあなあ。およそ凡人が考えないようなやり方で、あの変態をひねり潰すんじゃないか?」
「俺から見れば兄上様も、凡人じゃありませんよ。何か推測してらっしゃることが、おありでは?出し惜しみしないでくださいよ」
剣護は盃を置いて、頬を掻いた。自分の組み立てた積木を見た子供が、どうもこれでは納得が行かない、というような顔で。時間があるならもう一回、組み立て直したい、と考えるように。
「いや、してねえけど。うーん。推測なー。出来れば外れて欲しい推測なら、ないでもない。まあ、あるっちゃ、あるってことなんだけどさ。けどそれだと、俺が困っちゃうんだよな」
真白が動揺するかもしれないから、と剣護は言った。




