昔日の悲鳴
昔日の悲鳴
真白と荒太に報告する斑鳩の表情は事務的なものだった。
「黒羽森の言う縁の引力を当てに、新潟に絞って調べました。事件性がある可能性を示唆された真白様の推測は、正しかったようです。十年前、新潟県某市で一家無理心中未遂事件が起こりました。職場内の人間関係によるストレスから極度のノイローゼ、――――――後に全般性不安障害だったのではないかと言われていますが――――――、に陥った夫が妻を殺害、娘はその場から逃走、後、父親が縊死した現場に戻り、遺体を発見した模様です。事件当時八歳だった彼女の名前は上杉美羽。現在、十八歳。今は児童養護施設ひまわりに居住しています。事件後、彼女は言葉を発することが出来なくなっています。当時、彼女を診た医師は心因性失声と言う診断を下しました。今も、症状はそのままのようです」
真白は額に手を当て、瞑目した。荒太がその肩を抱く。
「…真白様。大丈夫ですか」
「―――――――ええ。ありがとう、斑鳩。他県の捜査報告書まで目を通すのは大変だったでしょう」
「お気遣いなく。同期のつてはこのような時、役に立ちます。尤も、借りも作りましたが」
艶麗な美女は微笑んで一礼すると去った。