炎天
炎天
新潟に到着した真白は、ひまわりに近い宿に滞在することとなった。本当はひまわりに美羽と寝起きしたいくらいだったが、要求は律子たちによって無下に退けられた。そうなるだろうと見越していた荒太は、妻の宿泊先を確保していた。
そして彼の命を受けて休暇を取った斑鳩が、真白に付き添った。
「真白様。今日も行かれるのですか」
真白は毎日、ひまわりに足を運んでいた。職員には歓迎されないが、美羽は真白が訪ねると笑顔を見せる。秀比呂への警戒もあり、美羽から目が離せないと真白は感じていた。
「うん」
「夏バテしておいででしょう。丈夫でないお身体で、無理をされて」
最近、宿で供される料理に真白は余り箸をつけようとしない。
真白は口角を釣り上げたまま、答えなかった。
「私が、代わりに参る訳には」
「斑鳩」
「はい」
「私は美羽さんを守ると約束したの」
たおやかな佳人と見える真白が、譲らない時はどうあっても譲らないと斑鳩は知っている。初志を貫こうとする思いは鋼のようで、柔らかな顔立ちとは印象を異にする。
艶麗な女性は真白をひたむきに見つめ言葉を返す。
「私も荒太様に誓いました。真白様をお守りすると」
守ろうとする意思の鋼のようであることにおいて、斑鳩も真白に負けてはいない。
「…ええ。それで同行してくれているのでしょう?」
「御身を大切になさってください。あなたは、荒太様同様、我ら七忍の主君です」
「ええ」
微笑む真白に、斑鳩は言い募る。
「背負い過ぎないでください。真白様を見ていると、時々、辛くなります」
「解っているわ。ありがとう、斑鳩。あなたも、荒太君も、私の為にどれだけ心を砕いているか、よく知ってるつもりなのよ」
そして今日も蝉の声の降る中、真白は地面を踏み締める。