ごめんね
ごめんね
妻には決して向けることのない冷徹な目で、荒太は通話相手に確認した。
「解っているな、兵庫」
『はい、御命令通り、張りついていますよ』
「他は」
『それぞれ、成すべきことを』
「それで良い」
『言われるようなことになった場合、朝林の処遇は』
「結界内で」
それ以上を荒太は語らない。間が開く。
『よろしいので?』
「ああ。泥は俺が被る」
『そういう言葉を軽々しく言うと、真白様が嘆かれますよ』
「解ってる、知らせないさ」
『―――――承知』
冷えた表情のまま、会話を終えた荒太は、青嵐の間のどこへともなく顔を上げる。
「じゃあ、俺はそう動かせてもらいますよ。信長公」
誰もいない部屋で確認するように告げた。
新幹線の中で、美羽は横に座る真白の異変に気付いた。
顔色が悪い。
〝真白さん、体調が悪いんじゃ〟
「うん、少し。でも大丈夫」
色の悪い唇で微笑む。
真白は余り丈夫ではないと荒太から聴いている。具合が悪くても我慢する時があるから、美羽も注意してやってくれと頼まれた。
座席に着いても手放さずにいたショルダーバッグに入ったポーチの中から、常備薬らしき物を取り出した真白は、車内に入る前に買っていた飲料水でそれを飲み、息を吐いた。それから、左手の薬指に光る青紫の石に唇を当てる。荒太に貰ったタンザナイトだと、以前、はにかむように教えてくれた。
美羽の胸には、込み上げるものがあった。
(真白さんに寄りかかることを、当たり前みたいに思ってた。何をやってるのかしら、私。与えられることに慣れ過ぎたんだわ)
〝真白さん、私、平気です。頑張れるから。真白さんも、無理しないで〟
真白はそれを読むと頷いて小さくごめんね、と言った。
なぜ彼女が謝罪するのかと、美羽は胸が痛くなった。