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声を弾く
声を弾く
時々、ずっと昔はお菓子の入っていた四角い銀色の缶の蓋を、開けては眺める。
桃色のおはじき。
白に黄色のかかった光るビー玉。
保育園で貰ったマラソン大会のメダル。
良い香りのする消しゴム。
金色の折り紙。
七色の鉛筆。
他愛もない物ばかり。けれど自分には、どれも大切な宝物。
「またそれ見てんのか、美羽」
優しい顔で笑いかける少年の顔を見る。
〝星君〟
「もうすぐ食事だってさ。行こう?」
美羽はコクリと頷き、缶の蓋を元に戻した。
灰色の海岸に日が差す気配は無い。濃い岩陰の色はグレーだ。
波打ち際を歩きながら、美羽は顔を上げる。
時折、誰かに呼ばれている気がする。
自分を呼べ、と。
誰かが。
急くように。
焦がれるように。
愛情と言う、幻のように。
彼女は嗤う。
そんなまやかし。作り事。
――――――私は騙されない。決して呼ばない。
嘗て愛は、私を傷つける為にあった。そうして私を裏切った。
緩くうねる長い髪が風になびく。
それを手で掻き遣り、暗色のワンピースを着た少女は、虚ろな目で波打ち際を歩き続ける。