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花騎士
花騎士
美羽が荷造りをするのを真白は手伝った。
こんな莫迦なことはない、と彼女は唇を噛んでいた。
ひまわりで同様の作業をした時は、その後の美羽の幸せを信じて疑わなかった。
けれど今は。
美羽の手つきは鈍く、のろのろと動いている。
魂が抜けたように虚ろな表情。
彼女のそんな顔を見る為に、新潟から付き添ったのではない。
不条理な現状に沈黙している竜軌も荒太も、真白にはもどかしかった。
無力な自分をそれ以上に不甲斐無いと感じた。例えこれが、一時の戦略的撤退だとしても。
「美羽さん。絶対にあなたをまた、ここに帰すわ。この胡蝶の間に」
絶対に、と真白は低い声で繰り返す。悔しさで声が震えないよう気をつけた。
美羽が真白を見る目は茫洋としている。
こんな目を、誇り高い蝶がしてはならないのだ。
「新庄先輩の手が届かない場所では、私があなたを守るから」
忠誠を誓う騎士のように。
強い決意を漲らせた白い面は凛として、邪なものは全て打ち払うようで。
美羽はぼんやりとした思いでそれに見惚れた。