淡く
淡く
星は近くのホテルに泊まっていると美羽に告げた。
美羽が望むなら隣室も押さえてあると誘われたが、美羽は首を横に振った。当然彼女が頷くものと考えていた星は、顔に落胆と複雑な感情を露わにして新庄邸を去った。
外は雨が降り始めていた。
「卑劣だわ」
軽蔑した表情で言い切る真白に、荒太も頷く。蘭が口を開いた。
「朝林が美羽様を襲った際、パソコンの画面にはメールの受信トレイが表示されていました。美羽様が扱われたあとだと思うのですが。その際に渡木星のメールアドレスを盗み見たのだと思います。まさか、こんな手段に出るとは」
「里親が里子に性的虐待を行うとは、よく聞く話ではある」
「悠長なことを言っている場合ですか、先輩。とにかく、黒羽森を呼びます」
「親父も顧問弁護士を呼んだ。これ幸いと、美羽を放り出す口実に使わなければ良いのだが」
真白の目が強く光る。
「美羽さんの手を離さないでくださいね」
竜軌は答えなかった。
その晩、美羽は初めから竜軌にしがみついて離れなかった。
失うのではないかと、彼女は怯えていた。鼓動が速く鳴り、眠気が訪れない。
「美羽。忘れるな。どんな事態になっても、俺はお前の声だけを待ってる」
事態って、と口を動かしたが、竜軌は淡く笑むだけだった。
(いや。そんな風に笑わないで)
彼らしくない。
竜軌が美羽を諦めたら、その時点で美羽の幸せも終わる。
夏だと言うのに震えが止まらない身体を、竜軌はずっと抱いていてくれた。
けれど美羽が最も望む言葉は、ついに口にしてはくれなかった。
大丈夫、決してお前を離さないとは。
翌日の午前中、児童養護施設ひまわりの職員が新庄邸を訪れた。