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竜に注ぐ
竜に注ぐ
竜軌が美羽の上から退き、美羽の身体を助け起こした。
美羽はメモ帳とペンをバッグから探る。
〝あなたはそれで、自分を責めていたの?〟
「俺と一緒でなければ、お前はまだ生きることが出来た」
この言葉に美羽は、反発するような思いを感じた。
悲しみと共に。
〝あなたなしで?〟
「……お前と離れたくなかった。俺の我が儘がお前をも死なせた」
〝私、夢を見たわ。最期、あなたといられて良かったと思ってた〟
「――――――美羽」
美羽は竜軌の膝に縋って泣いた。
(死なないで。死なないで。竜軌)
火焔の中、一人で消えてゆかないで。
美羽の震える背中を、竜軌の手が撫でた。
「どうしたら良いのだろうな、美羽」
竜軌が呟く。
「俺はお前以上に愛しい生き物を、他に知らない。お前が泣かない為なら何でもしてやりたいし、それが美羽の幸福と言うなら、お前を手放しても良いとさえ思う」
莫迦なことを、と美羽は更に泣く。
(あなたから離れたところに、私の幸せなんて無い)
美羽はあらん限りの力で竜軌を押し倒して、涙と唇を降らせた。
竜軌はそれを甘受した。