蝶の熱
蝶の熱
唇は、至るところに降り注いだ。降る花びらのように。花びらが落ちたところは熱を持つ。
美羽は花の天蓋の下にいた。
竜軌は美羽の指を甘く噛み、舐めた。首を甘く噛み、また舐める。
噛んでは舐める。
垣間見える歯は白くて、尖った犬歯は美羽を傷つけない。
大きな美しい獣に、愛されているようだった。
唇に、入って来た時は驚いたが、嫌な感触ではなかった。
生地の薄いスカートの裾の下、肌に手が置かれて、初めて怖いと思った。
被さる竜軌のシャツの胸を掴み、首を横に振る。
竜軌は怒っただろうか。気分を害しただろうか。
「すまん、美羽。怒ったか?」
美羽の危惧とは逆に、竜軌に謝られる。大きくかぶりを振る。
「嫌だったか?」
これにもかぶりを振る。
自分はまだ子供で、怯えて応じられずにいる。情けない。
「…そんな顔をするな。今のは俺が悪い。抑制が、効かなかった」
竜軌の顔を見上げる。
「お前が綺麗な女だったから」
本当?と唇を動かすと、真顔で頷かれた。
それから、美羽は、火の中、と唇を動かした。
竜軌はそれを上からじっと見ている。
あなたと、火の中に、いた気がするの。
(爆ぜる火の粉がきらきらして)
「―――――ああ。間違ってない」
一緒に。
(金に光っていた)
「うん」
死んで。
「うん」
燃えた。
(紅蓮の華になった)
「そうだ」