華のおとなう
華のおとなう
大輪の牡丹のような女性だ、と彼女を見た美羽は思った。金茶色に染めた長い髪が、華やかさを引き立てている。
竜軌が胡蝶の間に入れるくらいだから、彼の信頼を得ている女性。竜軌の顔つきも穏やかだ。美羽が不機嫌な顔になりかけたところ、当の牡丹に抱きつかれた。
「義姉上、お久しゅう!相変わらず、お美しくあられる。妾を憶えておいでか」
古めかしい物言いと香水の甘い香りに、美羽は手を泳がせた。竜軌、竜軌、と口を動かして助けを求める。
「おい。おい、そのへんにしておけ。それは俺のだ」
竜軌の呆れ声に女性は美羽から身を離した。
「妾の真白を独占しておられる癖に」
不満そうに言う。
「荒太も一緒だが」
「どうでも良い」
スパ、と切って捨てる口調だった。
改めて、三原市枝と名乗った女性は、手土産にチーズケーキを持参していた。美羽も名前を知る有名菓子店のケーキは美味しかった。家政婦の淹れてくれた紅茶とよく合い、美羽が目を細めていると、竜軌が新たな一切れを切り分け、どんどん喰え、と言った。市枝はそれをにや、という笑みを浮かべながら見ていた。
ケーキを食べる手を休めて、美羽が市枝に問う。
〝あなたは、竜軌の?〟
「極めて、ほぼ、妹です」
微妙な言い回しだ。まさか孝彰の隠し子ということでもあるまい。これも前世云々と繋がることだろうか。
「お前、大学は」
「今日の講義はありません。真白と入れ違いです、口惜しや」
「はは、残念だったな」
〝あの、真白さんと市枝さんは〟
友達なのだろうと思っていると、予想外の答が返った。
「極めて、ほぼ、恋人です」
「市枝、嘘を教えるな。お前の片恋だろうが」
キッと市枝が竜軌を睨む。
「心外な。妾にとっては真実です。真白は妾の愛する雪、愛する花」
美羽は頭の中を整理しようと試みた。市枝は竜軌の妹に等しく、真白は彼女にとって恋人に等しく、だが竜軌曰く……。角度を変えるだけで真実は全く違う顔を見せる。
しかし紅茶を飲み終えた市枝は、マイペースに告げる。
「では美羽さん、美容室に参りましょう。少し整える程度でよろしいですね、兄上」
「全員、女性店員だな?」
「左様。くどい。兄上」
「男に美羽の髪を触らせられるか。美羽に何かあれば承知せんぞ」
市枝の紅の唇が、ふ、と弧を描く。
「いざとなれば百花で美羽さんを守ります。義龍など蹴散らしてくれましょう」
女将軍のような勇ましさだと美羽は思った。