※与え合うこと
これまでのあらすじ。
美羽と再会を果たした竜軌。反発しながら距離を縮める二人だが、美羽の前生における兄・斉藤義龍、今生名・朝林秀比呂は現在でも美羽に執着していた。
彼を敵と見なし、美羽を守ろうとする竜軌。
前生で竜軌と縁のあった成瀬真白・荒太夫婦も、美羽を守るべく動く。
竜軌の父である新庄孝彰は美羽に竜軌と別れるよう求めるが。
与え合うこと
美羽が書斎を出ると、竜軌が待っていた。
彼の姿を見て、張り詰めていた気持ちが緩む。
伸ばされた手に頬擦りする。帰って来た、と思う。
「頑張ったな」
労われて頭を撫でられ、手を引かれる。
一つの関門を抜けた、と美羽は思った。
「最後、親父に何と言った?」
胡蝶の間に戻ると、尋ねられた。
「お前の声は聴こえんからな」
首を傾げるとそう言う。まるで孝彰の声は聴こえていたかのような言い方だ。
あの木の扉は厚そうに見えた。部屋の外に音が洩れるだろうか。
〝見えを切ったわ。あなたを〟
そこで止まり、竜軌を見る。黒い瞳が見つめ返す。
〝私が幸せにするって。お父さんが、竜軌の幸せを一番に考えないのなら、私がそれを考える。竜軌に損と思わせない人生を、送らせてみせるって、そう伝えたわ〟
「悔やんでるか?」
美羽はかぶりを振る。
何度でも、同じことを言う。何度でも。美羽が美羽である限り。竜軌が竜軌である限り。
〝竜軌は、それで良かった?〟
頭を抱き寄せられる。
「文句ない。ありがとう」
耳元で、何より嬉しい言葉が囁かれた。