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No Title  作者: ころく
44/85

No.42.5 雨、その中で







 外は強い雨が降り、激しく屋根に叩きつけてくる。ばつばつと音が響き、薄暗さを感じさせる事務所の廊下。

 そこに黒のスーツ、黒のネクタイ、腰まで伸びた黒い長髪。黒を纏った一人の男性――――白羽が居た。

 腕を組んで壁に寄り掛かり、静かに目を瞑っている。


「……白羽さん」


 廊下の奥から紺色のスーツを着た女優、深雪が歩いてきた。

 白羽は目を開き、視線だけを向ける。


「子供達は?」

「広間で濡れた服を乾かしてます。白羽さんも……」

「いや、いい。私はここで彼を待っているよ」

「彼、大丈夫でしょうか……?」


 深雪は曇った表情で、玄関の方を見る。


「……大丈夫さ」


 白羽も玄関がある方へと目をやり、小さいながらも力強く。


「彼は、強いからね」


 目を細めて、そう、言った。

 悲しみと、怒りと、悔やみ。様々な感情が入り混ざった瞳をさせて。


「深雪君、すまないが風呂を沸かして欲しい」

「お風呂、ですか?」

「うん、身体が冷えてるだろうからね。傷の具合も湯に浸かる分には問題無いだろう?」

「多少の擦り傷と打ち身ですから、長風呂にならなければ」

「それでは頼むよ」

「はい、わかりました」


 深雪は返事をして、足早で廊下を駆けていった。

 その後ろ姿を見送った後、白羽は視線を下げて自分の足元へとやる。普段は白く綺麗なタイルも、薄暗さで鼠色に見える。


「命を弄び、人をモノとして扱い、若い子供達が泣き哀しむ……」


 眉間に皺を寄せ、眉毛の端を釣り上げ。黒い前髪の隙間から覗けるその眼は。


「それが大人のする事か、テイル……ッ!」


 眼を細め、歯を軋ませ、静かに怒る。ただただ、憤怒だけが籠もっていた。

 一人の少女を助けれなかった。赤茶い眼髪の女の子を、救えなかった。大人が守るべきモノを、守らなければならない人を、自分は守れなかったと。

 後悔、悔恨、憤怒、悲哀。抑えきれぬ気持ち。隠しきれぬ感情。黒を纏う男のその瞳は光が消え、黒よりも深く黒色に染まる。


『――――――』


 激しく降る雨の中に混ざり、外から聞こえてくる一人の少年が哀しむ雨の音。


「今日の雨は一段と……雨音が強い」


 そう呟き、白羽はゆっくり双眸を閉じていく。

 様々な感情を噛み殺して――――。









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