第六話 改律神アウレリウス
第六話を投稿します。よろしくお願いします。
「うおおおおおお!!!」
「やっちまえ!!」
警報音が鳴り響く中、俺たちは突き進む。
「行け!!支配を破壊するのだ!!」
レイは民衆を導く。
解放された人々は波のように王宮まで到達せんとしている。
『直ちに排除せよ』
『直ちに排除せよ』
通路から無数の兵が現れる。
皇帝直結の守衛。恐ろしい数だ。工場内を埋め尽くす。
瞳が赤く光る。
「おいおい……。」
「ふむ、さすがに守りは堅守、か。」
「うおおおおおお!!!」
大柄な男が兵に向かって突撃する。
前方の小隊が総崩れになる。わずかな怯み。
「こっちへ来い!!」
俺たちは男達に導かれる。
目の前に現れたのは小さな扉。
「ここを通ればすぐだ!!今のうちに行け!!」
「任せろ。玉座の皇帝はこのレイ=アルカディアがじきじきに斬り捨ててくれるわ!!」
「頼んだぞ!!」
通路を急行する。駆ける俺とレイ。
バン!!
俺たちは勢いよく玉座へ入る。
巨大な光輪がゆっくり回転する。
皇帝の声が、空間に直接響く。
「整合拒否個体」
「排除する」
空気が重くなる。
都市そのものが敵になる。
レイは、微笑む。
「いいだろう」
次の瞬間――
「同期完了」
キリキリキリキリという無数の金属音。
床が、扉が天井が、甲冑に変わっていく。
「何だ……?」
異様な光景に俺は呆然とする。
「ほう。部屋そのものが貴様の肉体というわけか。」
現れたのは無数の甲冑
白銀の装甲。無機質な瞳。
一糸乱れぬ隊列。
前列が膝を落とし、後列が槍を構え、さらに後方が弓を引く。
皇帝の声が響く。
「排除開始」
動きは同時。呼吸も同時。
刃の角度まで同時。
まさに――国家。
対するは
レイ=アルカディア。
俺は後方で息を呑む。
数。質。空間支配。
すべてが不利。
だが。
レイは、動かない。
騎士たちが一斉に踏み込む。
完璧な同時攻撃。
回避不能の包囲圧殺。
その瞬間。
空気が、凍る。
レイの周囲から、
漆黒の奔流が噴き出す。
「虚無・暗黒波動〈ゼロ・ダークマター〉」
グワアアアアアア――――
レイ=アルカディアの存在の圧が兵器と化した部屋を覆い尽くす。
空間が歪む。床の紋様が剥がれ落ちる。
ガシャン、ガシャンという音。
肉体を持たぬ兵器が崩れ落ちる。
同期信号が、乱れている。
「……演算、誤差」
皇帝の声に、初めてノイズが混じる。
そこにできた、
ほんの刹那の隙。
レイの足が、消える。
次の瞬間。
黒い軌跡。
一直線。
音すら置き去りにする踏み込み。
「――黒影穿〈シャドウ・ピアス〉」
一拍。
遅れて。
皇帝の首が、滑る。
床に落ちる。
ゴトリ。
騎士たちが、完全に停止する。
光輪が、砕ける。
演算式が崩壊する。
沈黙。
レイは振り返らない。
俺は息を吐く。
終わった。
――そう思った瞬間。
皇帝の胴体が、
まだ立っている。
光輪が、ゆっくりと回転を始める。
都市全域から、光が集まる。
首のない胴体が、再び動く。
空間に、声が響く。
「端末、破損」
「本体、健在」
床が割れる。
都市そのものが、唸る。
落ちた首が光に溶ける。
血は流れない。
代わりに都市の光輪が逆回転する。
「端末破棄」
「本体接続」
玉座が崩れ、床が割れる。
外の町並みが歪む。
塔が傾き、橋が浮き、石畳が波打つ。
都市そのものが脈動する。
皇帝の声が空から降る。
「権能《再機律》使用」
空間に文字列が走る。
法則の書き換え。
瓦礫が分解され、再構築される。
鉄は剣に。石は鎧に、塔は腕に。
町と融合した皇帝が巨影となって立ち上がる。
都市型神性兵器。
人の形を保ちながら、背後に無数の建造物が連結している。
「あ、足場がうわわわっ!!」
「掴まれ灯陽!!跳ぶぞ!!」
町の環境が敵になる。
瓦礫が意思を持つように襲いかかる。
“最適化された存在”。
――――――
「助かった……。」
「ふむ、ここだけは崩れないようだな。」
『標的、発見』
空には巨大な光輪、
「ずいぶん逃げたのにもうお出ましかよ……」
「案ずるな。英雄には窮地がつきものだ。」
ザザザとなだれ込む大量の軍隊。だが様子がおかしい。
『《再機律》・理想個体〈イデア〉化』
「ウウ……。」
骨が伸びる。
装甲が皮膚と融合する。
瞳は完全な白。
恐怖も迷いもない。
人ではない。
“最適化された存在”。
「グルルアアアアアアア!!」
無理矢理伸ばされた骨はあまりにも痛々しい様子。
これが理想?皮肉にも程がある。
「やっちまえ、レイ」
「ふん、苦しみを与えず葬ってやろう。」
――――――
「ふん!!」
ズバン!!と前方の怪物の体が裂ける。
『《機神契約・万物再生」』
しかし、みるみるうちに化け物の体が再生していく。
「そうよね。そのくらいじゃ止まってくれないわよね。」
聞き覚えのある声。目の前には、
アリア。
「アリア!」
「来ないで!!」
「貴方たちは異物。異物は整合できない。」
アリアを見る。頭に輝く光の輪。
まるで天使の使徒のようだ。
『無力化手段として同行者の敵対が最適』
『再教育を施行 信仰心を増加』
光の輪が輝きを増す。
「私、解ったの……。神による支配のみが平和につながるって。あなたたちは外敵、排除する。」
「兵士たち!!あいつらを殺して!!」
途端に防戦一方になるレイ
「くっ……。」
灯陽が一歩踏み出す。
「お前さ!!」
瓦礫が迫る。
レイが弾く。
「理想ってさ、痛いのか?!!」
アリアの動きが、止まる。
ほんの一瞬。
「支配は平和、神に祈れば平和……。」
アリアはうわごとを言っている。
灯陽は叫ぶ。
「うるせえ!!じゃあ今のお前の顔は何だよ!」
アリアの頬。
ひび割れた光が走る。
寿命の削れた痕。
「それが“最適”なのかよ!!」
空間が軋む。
演算が乱れる。
アリアの声が二重になる。
「私は……整える……。」
「違うだろ……!!」
灯陽は震えている。
怖い。
でも退かない。
灯陽は叫ぶ。
「全部決められたら、窮屈じゃんか!!」
「それってさ!!本当に正しい事なのかよ!!」
ほんの一拍
アリアの瞳に色が戻る。
「……。そうだ。」
小さく。
でも確かに。
「間違ってる。こんなの平和じゃないよ……。」
『信仰心、低下 再教育を……。』
「私をーー」
「私を縛るな!!」
光の拘束がひび割れる。
皇帝が初めて焦る。
『不整合。適合者。思想逸脱。』
光が弾ける。
同期回線が断裂する。
都市機能が一瞬停止。
レイが笑う。
「良くやった、灯陽。あとは下がっていろ。」
レイはゆっくりと前へ出る。
崩壊した都市の中心。
瓦礫の海の向こう――
玉座と一体化した皇帝が、神のような巨影となって立っている。
レイは剣を肩に担ぐ。
「そして――」
空気が軋む。
「引導を渡してやろう」
レイの足元から
闇が噴き上がった。
黒い波動。
それは煙でも魔力でもない。
世界そのものが黒く染まっていく。
地面が沈む。
瓦礫が浮く。
建物が軋み、崩れ、空へ吸い上げられていく。
空の雲が渦を巻く。
レイの背後に
巨大な闇の翼が広がる。
都市の影すべてが
レイの背後へ引き寄せられる。
闇が全てを覆い尽くす。
『危険』
『危険』
「一撃で破壊してやろう。」
世界が反転する。
「終――」
「神命断界覇王斬!!(ファイナル・デスティネーション)!!」
次の瞬間。
黒い斬撃が
世界を走った。
都市。
空。
雲。
大気。
空間。
すべてを一直線に裂きながら
斬撃は皇帝へ到達する。
音が消える。
時間が止まる。
そして――
都市が真っ二つに割れた。
数百の建造物が同時に崩壊する。
瓦礫の嵐。
皇帝の神体に
巨大な亀裂が走る。
光が噴き出す。
神性が崩れる。
『……見事だ』
皇帝の声が震える。
巨体が崩れ落ちる。
都市の神が、
膝をついた。
レイが吐き捨てる。
「これで、終幕だ。」
―――
巨影が崩れる。
背後で連結していた建造物が、次々と分離していく。
都市型神性兵器――
その中枢を失った王は、なお膝をついていた。
瓦礫の中、首だけとなった皇帝がレイを見る。
『人語を解析、仮想体を出力』
光の粒は塊となって人の形を成した。
皇帝は口を開く。
『……見事だ、異物』
レイは剣を下ろさない。
「まだ動けるか?」
皇帝はかすかに笑う。
『もはや核は停止した。』
視線が、ゆっくりとアリアへ向く。
『適合者アリア=セルヴァ』
アリアはただ立ちつくしている。
皇帝の声はもう機械的ではない。
どこか、静かだ。
『お前は理解した。この改律神アウレリウスの理念を』
「……うん」
『だが、お前は選んだ』
沈黙。
風が吹く。
崩れた聖堂跡に、自然の音が戻る。
『改律は秩序を生む。だが秩序は、やがて硬直する』
皇帝の背後で、最後の光が消えていく。
『余白を持たぬ世界は、滅びる』
レイが目を細める。
皇帝は続ける。
『だから私は敗れた』
その言葉に、誇りはあっても悔恨はない。
地面から、一つの杖が浮かび上がる。
白と金の円環。
だが今は、柔らかな光。
『余白杖アウレリウスと名付ける。』
『これは命じぬ。』
『書き換えぬ』
『ただ、余白を残す、我が分身なり。』
アリアは両手で受け取る。
「いいの?」
『ああ。我に“人の時代“を見せて貰った礼だ。』
『持って行け。』
皇帝の視線が、灯陽へ。
『未熟なる者』
灯陽は思わず背筋を伸ばす。
『私を最も恐れていた』
『だが最も、自由だった』
灯陽は何も言えない。
皇帝の身体が、砂のように崩れ始める。
『これよりは――』
一拍。
『人の時代だ』
空が、開ける。
都市の上空を覆っていた演算光が完全に消える。
雲が流れる。
風が吹く。
遠くで、誰かが泣き、誰かが笑う。
『汝らの旅。この私が見届けよう』
最後の光が、星のように散る。
消滅。
完全停止。
静寂。
レイが剣を肩に担ぐ。
「……敵としては上等だったな」
灯陽はへたり込む。
「なんかさ、勝った感じしないんだけど」
アリアは杖を見つめる。
「だって、否定じゃないから。」
余白杖の円環が、ゆっくりと回る。
今度は逆でも順でもない。
ただ、静かに。
「書くのは、これからだよ」
夜風が吹き抜ける。
神は去った。
―――――
神都ヴェルオリオンは、もはや神都ではない。
崩れた塔。
砕けた外壁。
割れた大路。
だが、人は立っている。
演算光に照らされていた空は消え、
代わりに夕焼けが街を染める。
不揃いの色。
不均一の影。
誰も命令しない。
誰も従わない。
それでも、人々は動く。
瓦礫をどける者。
怪我人を運ぶ者。
言い争い、すぐに笑う者。
効率は悪い。
だが温かい。
灯陽が瓦礫を蹴る。その瓦礫は外縁区と中層区を隔てていたものだった。
「案外、脆かったな」
レイは腕を組む。
「より硬かったのは、人の心といったところか。」
アリアは広場の中央に立つ。
《余白杖アウレリウス》。
改律神アウレリウスの新たな姿。
彼女は地面にそっと触れる。
壊れた噴水の縁に、小さな芽が出る。
直すのではない。
ただ、余白を残す杖。
子どもたちが近づく。
「これ、なに?」
アリアは微笑む。
「まだ決まってない」
それが答えだった。
だからこそ、進める。
――――
その夜。
遠く離れた孤島。
武装国家アンダルキア。
海を囲む砲台群の中央で、巨大な鎧が佇む。
白い光が走る。
《選定》が、目を開く。
――観測完了。改律神の中枢消失を確認。
静かな声。
「選別を開始する」
海風が止む。
兵たちが一斉に膝をつく。
―――――
霊峰アレス。
雲上の神殿。
教団ルミナスの大聖堂。
巨大な鐘が鳴る。
誰も打っていないのに。
《賛美》が、笑う。
「素晴らしい」
「不完全。ゆえに、美しい」
信徒たちの瞳に光が宿る。
熱狂が芽吹く。
―――――
巨大湖。
水面は鏡のように静か。
その中心が、ゆっくりと黒く沈む。
泡が一つ。
二つ。
《終極》が、目を開く。
何も言わない。
ただ、待つ。
終わるべき時を。
――――
神都跡。
屋根の上。
灯陽が空を見る。
「終わったんだよな?」
レイは答えない。
アリアだけが、わずかに顔を上げる。
風が、違う。
遠くで、何かが動いた。
余白杖の円環が、かすかに震える。
「……まだ、だね」
レイが笑う。
「英雄に平穏はないらしい」
灯陽は苦笑する。
「勘弁してくれよ」
星空の下。
復興の灯り。
その向こうで、次の波が静かにうねる。
選定 賛美 そして終極
三つの理が、世界の別の場所で渦巻く。
未完成のまま
物語は続く。
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