第二十話 理外の灯火
第二十話を投稿します。よろしくお願いします!!
「理想の前にはだれもがひれ伏す。未原灯陽。これが現実だ。」
目の前には創造神の”理想”四機神が並び立つ。
アリアや街の皆、騎士団やルミナスの兵士達、”意思ある物”たちの
”不完全の軍勢”が押し潰される。
「灯陽!!このままじゃ……。」
だが――
俺は、笑った。
「……やっぱりそう来るか。」
ノートを、ゆっくりと閉じる。
「完璧だよ、お前の世界。」
「でもさ――」
指先で、ノートを軽く叩く。
「それ、“創った”んだろ。」
沈黙。
「改律も、選定も、賛美も、終極も全部お前の創造の書とやらに書いたやつだ。」
「だったら――」
「オレにもその権限はあんだろ。」
俺はノートに力を込める。
「創造《権限譲渡 カオス・プロトコル》!!」
パラパラパラパラパラパラパラ……。
灯陽のノートのページが書き換わる。光り、解き放つ。
空間が、乱れる。
四つの理が、めまぐるしく“定義“されていく。
“支配”たる四機神に対をなす“自由“の定義。
“創造神ゼルディオンの書いていない力“。
それらが崩れゆく四人の者たちに流れゆく。
アリアの周囲に、淡い光が広がる。
それはかつて改律神が託した力、消えかけていた力。再び。
「――『余白』
歪んだ法則に、“ズレ”が生まれる。
本来なら砕けるはずの魔法が、軌道を逸らし、繋がり直す。
「間違えてもいい……やり直せる!!」
彼女の魔法は、“失敗を許される力”として再定義される。
『規定値超過。予測不能。』
『余白――必要要素?』
騎士団長アルトゥスが剣を掲げる。
「――『守護』!!」
光の壁が展開され、切り捨てられるはずだった命を繋ぎ止める。
「俺たちは消されていたのか……?」
消去されていた騎士達が蘇る。
「奮起せよ!!反撃の狼煙をあげよ!!」
“選定”に抗い、守るべきものを全て守り続ける意思。
『小癪な……我が傀儡共めが……。』
獣兵長アゼルが、大地を踏みしめる。
「――『意志』」
消されかけた未来を、自らの選択で引き戻す。
「ウオオオオオオオオオオオ!!!」
セラフィム神の救いにより、戦意を喪失していた兵士達は再び息を吹き返した。
「私は……私の意志で選ぶ!!」
定められた結末を、拒絶する力。
『なんと愚かな……。それでも君たちを救おう。』
そして――
ゼグマが、笑う。
「――『流動』!!」
「……身体から力が湧いてきたぜ!!」
錆び付いた歯車に油を差した時のように身体が動く。
「サイキドウ!!サイキドウ!!」
止まってた時間が動きだした。
止められた時間を、ねじ曲げるように突破する。
止まっても、砕かれても、倒れても、
「止まるかよォォォォ!!!」
動き続ける。
ただ、それだけで”終極”を否定する。
『終わりが、揺らぐ……?』
改律が歪み、選定が乱れ、賛美が崩れ、終極が遅延する。
完全だったはずの神々が、“不完全”へと引きずり下ろされる。
「見たかよ――完璧な創造神。滅茶苦茶で不格好で未完成なのが、俺たちの“可能性“だ!!」
老人が、わずかに息を呑む。
「……力を分け与え、相互に補完させるか。」
「いやはや、全てに絶望し世界を管理した私には到底考えつかぬ行為だ。」
俺は笑う。
「一人で完成しなくていいんだ、未完成のまま、繋がって助け合うんだ。」
光が、さらに広がる。
仲間たちの力が共鳴し、重なり合う。
「余白が守り、守護が繋ぎ、意志が選び、流動が進む。」
改律神の法則に“余白”と言う綻びが生じ、
選定神の剣は“守護”の前に砕け散る。
賛美神の救済は“意志”に拒まれ、
終極神の終焉は再び“流動”する。
「それが、“俺たちの創造”だ!!」
――バチィィィィィン!!!!
四柱に、同時に亀裂が走る。
「ぐ……っ……!」
老人の声が、初めて揺らぐ。
「これが……人の……可能性……!」
俺は、最後に手を振り上げる。
「決めるのは、お前じゃない。」
全ての光が、収束する。
「《創造連鎖・無限共鳴》!!」
仲間たちの力が一つに束ねられ、
“未完成のまま完成へ至る力”となって、
四柱へと叩き込まれる。
――――崩壊。
理が砕け、世界が揺れる。
世界に、最後の光が残る。世界が崩れていく。
そして――
――――――――――――――――――――――――
白い部屋。
音も重さも温度すらない空間。
灯陽が気がつくととそこは何もない白い部屋に立っていた。
「あれ?」
足下の感覚すら曖昧な白の世界。彼は周囲を見渡す。
「今、俺戦ってたよな……。」
先ほどの戦いが嘘のように無くなりさっぱりとした無機質な世界に来てしまった。
「まさか……。」
俺は青くなった。創造神を倒してしまったことで全てがきれいさっぱり無くなってしまったのか?
アリア!!カイル!!というか、現実の世界も大丈夫だろうか……。アパートは?両親は?東京は?俺が一から作んなきゃいけないのか?
俺を産んだはずの両親を俺が創るって変な感じだな。鶏が先か卵が先か、みたいな。
あ、じゃあ、地球、さらに宇宙の歴史からか?えっとビックバンとか、恐竜が……どうしよう……。もっと勉強しとけば良かった……。
「やっちまった……。」
そんなことを考えていると、
「――未原灯陽よ。」
声が、世界そのものから響いた。
「未原灯陽。――昔の私よ。」
背後に現れたのは老いた自分、創造神ゼルディオンだった。
「うわっ!!創造神!!さっき倒したはずじゃ!!」
「今のは我の能力で世界を再現したに過ぎぬ。」
「良かった~~!!生きててくれなきゃ困る!!」
「何だ急に。私に生死の概念はないから死にはせんぞ。」
「ここはどこなんだ?」
「裏の世界だ。現実ではないが虚構でもない。可能性そのものを扱う領域だ。」
「裏の世界?俺が昔ノートに走り書きしただけの場所だろ?なんでそんなに大仰なものになってんだ?」
「創造神ゼルディオン。宇宙一強い。全てを支配する。裏の世界に住む。と昔書いただろ。」
「あー、」俺は昔のことを思い出す。確かに中学時代、そう書いたかも知れない。
「逆説的に世界が帳尻を合わせたのだろうな。」
「裏の世界にいる者は全てを支配する。」
「その条件を満たせるのはこの世界で一つのみ。」
「つまり私のような、」
「――創造の書を手に入れ、それを自在に操る未原灯陽。と言う可能性だ。」
灯陽は眉をひそめる。
「……可能性?」
「そうだ。」
ゼルディオンはうなずく。
「可能性とは、無数の分岐を持つものだ。だがそれらは観測できず、選ばれた一本だけが現実として固定される。」
「それを決めるのが、法則。」
「そしてその法則を決定する権限を持つ存在こそが――」
「“神“だ」
「そして誤差を排し、分岐を閉じ、唯一の正解へと導く。それが私の目指した理想だ。」
「じゃあ、俺はそれを壊しちまったって訳だ。」
灯陽は少し笑う。
「違う。壊したのではない。」
「拡張したのだ。」
「余白、守護、意志、流動。あれは法則の否定ではない。法則の再定義だ。」
「まあ、余白は改律神がやったことだけどな。俺がやったのはその真似ごとだよ。」
「改律神が……?まあいい。」
「つまりお前は“神の領域”に踏み込んでいる。」
「だからこそ言う。未原灯陽。」
「お前が神になれ。」
俺が神に……?予想外のことを言われ、呆然とする俺。
もう爺さんだから交代してほしいとか?
いや、死の概念はないって言ってたもんな……。
色々考えた結果、俺はこう答えるしかなかった。
「いや絶対無理だ。神になんてなれねえよ。」
「なぜだ……?」
「俺って元はただのサラリーマンだし、神ってのは人の人生も決めなきゃならねえんだろ?俺一人でなんて重すぎる。第一、世界を創るなんて、責任重大すぎるだろ。」
先ほど白の世界になった時の焦りを思い出す。
異世界だって多くのものを目にした。木や空や山、そこに居る人々の名前だって自分で考え続ける。モンスターだってそうだ。俺にはアリアやレイが限界だ。どう考えても出来るわけがない。
「そうか……。」
ゼルディオンは目を閉じ、想いを馳せる。
「一人で、か。」
ゼルディオンは掌から光を解き放つ。無数の光。それらは空へ上る。
星々のように無規則に、無秩序に光はほどけた。
「確かに一つの意志で世界を支えるのは果てしない。だから私は切り捨てた。」
彼はそれを一つ、二つと選別し、規則正しい形に揃える。
「……息苦しい世界だな。」
「ならばどうする。未原灯陽。お前ならどう支える?」
光が再び元に戻る。主導権は灯陽に委ねられた。
「そんなもん決まってんだろ。」
灯陽は指を掲げる。一つの光を指さした。光は自ら動き出す。
光は他の光と触れ、次々とつながっていく光。そのつながった光はまた動き出し次の光へ。そのうち光は寄り集まり大きくなり規則正しく揃っていく。
「だったら、全員でやればいい。」
「……何?」
「一人一人は大したことねえよ。でもな、重なれば、世界になる。」
「幻想の、共同……。神は一人である必要はない。か。」
「そうだ。選ぶのはそれぞれ。間違いを正すのもそれぞれ。」
「それが世界だろ。」
やがて灯陽が指さした一つの光はいつしか巨大な一つの光になった。
その光は世界、巨大な共同体を示しているようだ。
「……なるほど。ならば訂正しよう。」
スウウウウウウウ……。
ゼルディオンの輪郭が形を変える。
老いた身体は分解され、
その内側から別の何かが覗く。
「お前は神ではない。」
「全員に選択の余地を与えた、“神に近づけた“存在だ。」
「未原灯陽。」
「お前達の行く末。私は世界の果てから見守るとしよう。」
「私の時代は終わりだ。」
「今度は――お前達の番だ。」
パァアアアア……
白が崩壊する。
視界が暗転する。
ひび割れるように、世界が音もなく砕けていく。
重力を感じる。
温かい日差しを浴びている。
風の音が聞こえる。
現実が戻っていく。
ゆっくりと灯陽は目を開ける。
何かを託されたような気がする。
それは曖昧で不確かな物。
一人で背負う物ではない。
「……全員で神か。」
お前達の番だ。
これは挑戦状だと思った。
創造神、そして繋がりを断った俺からの。
「やってやるよ。」
そう、俺は呟いた。
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