第十八話 創造神ゼルディオン
十八話を投稿します。よろしくお願いします!!
――静寂が訪れた。
影の塔は完全に崩れ去り、夜の空にはただ静かな月だけが浮かんでいる。
あれほどまでに荒れ狂っていた世界が、嘘のように凪いでいた。
俺は足下の瓦礫を踏みしめながら、ゆっくりと前を見据える。
胸の奥に残るのは、終わりではないという確信。
「……これで終わりじゃない。」
震える心を押さえつつ、俺の視線はさらに深い闇の向こうを捉える。
創造神ゼルディオン――この世の裏側に潜む、神々をも凌ぐ存在。
その名を口にするだけで、世界の構造が微かに軋むような圧迫感が胸にのしかかる。
奴の元へ赴き、この狂った世界を変える。それが、俺の使命だ。
瓦礫の冷たさ、空気の重み、夜の闇の深ささえ、すべて俺の決意を押し固める。
ここから先の運命を書き換えられるのは、俺しかいない。
「ノクスの先にある“裏の世界”。そこが本命ね。」
アリアの声は震えながらも、揺るぎない意志を感じる。
「行くわ。私も。――絶対に諦めない。言ったでしょ?神がこの世界から消えるまで戦うって。」
「ですが……行く方法がありません。ノクス様はそれを仰りませんでした。」
リナは塔の石碑を読みながら考えている。震える手を握りしめ、冷たい石碑の表面をなぞる。
「ですが確実に創造神は降臨するでしょう。四機神が狂えば、創造神が目を覚ます。そして世界を作り直す。私達の間では有名な言い伝えです。」
「じゃあ、それを待つのか?」
ゼグマは首をかしげる。
俺は静かに右手を掲げた。
「いや、こちらから乗り込む。」
「今の俺にはこれがある。“創造の書”が。」
その瞬間、空気がビリビリと震え、世界の輪郭が歪みはじめる。
瓦礫の影がねじれ、夜の闇が渦を巻き、月光が差し込む。
光と闇。その融合。情報は奔流する。
現実そのものが、俺の意思に書き換えられていく感覚。
「《創造》――」
光と文字が爆ぜる。
無数の数式、幾何学、理解不能な記号が空間を埋め尽くす。
それは“魔法”などではない。
この世界の根幹そのものを書き換える設計図。
「“裏の世界の鍵”」
光が一点に圧縮される。
ギィィィィィィィン――ッ!!
耳をつんざく高音。存在そのものが軋むような不協和音。
そして――
俺の手の中に“それ”は現れた。
ジジジ……。と歪み続けるそれ。
黒と白が絡み合い、ねじれ、存在が安定していない鍵。
見る角度によって形が変わる。
中心には――脈打つ“虚無と創造の核”。
それはまるで、世界そのものの心臓のようだ。
「それが……鍵……?」リナが息を呑む。
「ああ。」
握った瞬間、理解する。
これは“道具”じゃない。
――これは“権限”だ。
俺は何もない空間にそれを差し込み、回す。
その時だった。
ビリビリビリビリ……ッ!!
空間が悲鳴を上げ、世界の骨格が軋む。
金属が裂けるような音と空気を焦がすような振動。
次元の狭間が割れる。
「来るぞ!!!」
“反応”する。
世界に、裂け目が走る。
バキィィィィィィィッ――!!!
空間が割れた。光が歪み、色が反転し、上下の概念が崩壊する。
現実と似ているが、決定的に何かが違う。
――“裏の世界”。
「……なんだか気持ち悪いわね。」アリアが顔をしかめる。
ゼグマは口元を歪めた。
「だが面白い。強者の匂いがするな」
俺は一歩、踏み出す。
この先に、全ての答えがある。
「ここから先が――本当の本番だ。」
「行くぞ、みんな。」
そして俺は、“裏の世界”へと足を踏み入れた――。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「……あれ?」
気づけば、そこに仲間の姿はなかった。
「俺だけ……か?」
足元の感覚が曖昧だ。
地面なのかすら分からない。
「何だこれ……すっげえな……」
空間が歪んでいる。
いや、それだけじゃない。
視える。過去が、現在が、未来が。
走馬灯のように、無数の時間と世界が、重なり合い、流れ込んでくる。
都市、戦場、笑顔、死。
知らない景色、知っている記憶、まだ起きていない未来。
――全てが、ここにあった。
「あ……」
その中に、俺の知る世界があった。
何気ない日常。学校。会社。空。帰り道。
その中に上司に怒られている自分、
家で沈む自分。その全てが鮮明に見える。
“元の世界”。
その時――
「待っていたぞ。未原灯陽。」
声が響いた。その声に俺は振り返る。
そこに立っていたのは――
一人の老人だった。
ボロボロの服。擦り減った靴。
今にも崩れそうな細い身体。
いかにもみすぼらしい老人の姿をしている。
だが。その瞳だけは違った。
底が見えない昏い眼差し。
覗いた瞬間、引きずり込まれそうになる深淵。
「……そこに居るってことは」
俺はゆっくりと口を開く。
「お前が、創造神ゼルディオンか?」
老人は、ほんの僅かに口元を緩めた。
そして、ゆっくりと――頷く。
「いかにも」
その声は機械や古代の神と言う威圧感はない。
むしろ生身の人間の声だ。柔らかく穏やかなその声。
しかし、底知れぬ重みがある。それが、この老人がただ者ではないという証左であった。
「創造神ってその、人間なんだな……。」
思わず本音が漏れた。
もっとこう、機械仕掛けとか、異形とか、そういうのを想像していた。
改律神、選定神、賛美神、終極神
今まで経験してきた神はどれもが視覚的に圧倒的で存在そのものが脅威だった。
だがそれらを創った目の前の神は――
どこにでもいそうな、ただの老人。
「ははは……失望したかね?」
その声は、本当に全宇宙の秩序を掌握するあの創造神ゼルディオンなのか?
と言いたくなるほどの優しさと柔らかさに満ちている。
「いや、まあそんなことは……」
視線を逸らし、お茶を濁す俺。
だが次の瞬間――
「これでも、全知全能。」
老人の声が、空間そのものに染み込む。
「そして私も――」
ゆっくりと、一冊の本が現れる。
見覚えがある。それは昔、俺が書いた小汚い一冊のノート。
「――創造の書を持つ者だよ。」
――!!?
思考が一瞬止まる。
つまり――
「そうか……」
同じ創造の書をもつ者。
そう聞いた瞬間、俺はこの問いを投げかけずには居られなかった。
「なら……この本、どう思う?」
「どうって……」
パラパラ、と老人はページをめくる。
その仕草は、どこか懐かしかった。
老人は少し笑ってこの言葉を返した。
「ふふふ、実に未熟。見るに堪えん。粗が多い。構造も甘い。」
彼はつらつらと本の文句を語り出した。
嫌味を感じないような軽い感じで。
ページを指でなぞりながら、軽くため息をつく。
「改律神や選定神の設定も初めはこんな感じだったなあ。」
ぽつりと呟く。
声には威圧感もなくただの人間のぼやきだ。
「……はあ、粗が多い。」
「――昔の自分を見ているようでな」
――確信した。
「まさか……」
老人は、はっきりと笑った。
「ああ。そのまさかだ」
その瞳が、まっすぐ俺を射抜く。
「未原灯陽――」
「私は、お前の未来の姿だ。」
―――――――――――――――――――――――――――――・
「……は?創造神が……俺?」
思考が追いつかない。
否定したいのに――否定できない。
だが、理解してしまう。
視線。態度。
この“世界そのものを見る感覚”。
全てが、あまりにも“馴染みすぎている”。
「そう。」
老人――ゼルディオンは、静かに頷いた。
「やがてお前は、この世界に絶望する。」
「仲間を失い、希望を失い、選択を誤り――」
空間に、ひびのような映像が走る。
街は砕け、倒れる子供。
血に染まる手。
「……っ!」
思わず息を呑む。
「その果てに、お前は気づく。この世界は、不完全であると。」
ゆっくりと、杖が地を打つ。
ゴン――
その音だけで、空間が歪む。
その瞬間、視界が反転する。
「……何だよこれ。」
大陸全てが均一化された都市。
同じ動きをする人々。争いのない世界で誰もが同じ表情で微笑む光景。
風すら規則的に吹いている。
完璧すぎる。静かすぎる。
誰も、生きていないみたいだ。
「これが、私の辿り着いた理想だ。」
ゼルディオンの声には、誇りも、後悔もない。
ただ、空虚だけがあった。
「だから私は作った。法則も、この世界の枠組みすべてを。」
静かに語るその声は、あまりにも淡々としていた。
「だが――」
わずかな間。
「誰一人、私の思い通りにはならなかった。」
空間が、ゆっくりと歪み始める。
「四機神は極端な思考へと偏り、均衡は崩れる」
視界に、四つの巨大な影が一瞬だけ重なる。
「人々は争い、奪い、憎み合う」
焼けた大地。崩れた街。終わらない戦火。
「……そして」
ゼルディオンは遠い目をする。
「私はそれを、“何度も”見た」
――空気が凍る。
「一度や二度ではない。」
「世界を作り直し、法則を調整し、四機神の在り方を変え――」
「数え切れないほど、やり直した」
その一言に、途方もない時間が圧縮されている。
「善を強めれば、偽善が生まれる。力を制限すれば、裏で歪む。均衡を与えれば、停滞が腐敗へと変わる」
首を、ゆっくりと横に振る。
「何をどう変えても、結末は同じだ」
空間に、無数の“終わり”が映し出される。
滅び。崩壊。孤独。絶望。
「何度やっても、失敗する。」
その声には、もはや怒りも絶望もない。
ただ、結論だけ。
「だから私は理解した」
「問題は世界では無い。」
「四機神でもない。人でもない」
杖を、静かに握り直す。そこに宿るのは確かな意思。
視線が、真っ直ぐに灯陽を射抜く。
「――“選択”そのものだ」
空間が、悲鳴のように軋む。
「選ばせる限り、誤りは生まれる。誤りがある限り、争いは消えない。争いがある限り、誰かが取りこぼされる」
ゆっくりと、杖が持ち上がる。
「ならば答えは一つだ」
その瞬間、世界の色が抜け落ちる。
「最初から、選ばせなければいい、それが、私の辿り着いた“完全”だ」
灯陽は歯を食いしばる。
「違うだろ……。こんな世界間違ってる……。」
「ならお前はあの世界を見て、どう思った。」
ゼルディオンの声が、静かに空間へ溶ける。
「争いが絶えず、種族はバラバラ。裏切り、憎しみ、奪い合い……」
周囲の景色が変わる。焼け落ちた街。
剣を向け合う人々。血に濡れた大地。
「醜い世界だ。そう思うだろ?」
――確かに、そうだ。
綺麗な世界なんかじゃない。
理不尽で、残酷で、どうしようもない瞬間ばかりだった。
だが――
俺は、ゆっくりと首を振った。
「……確かにクソみたいな世界だったよ。」
「何度も死にかけたし、理不尽だらけだったし、意味わかんねえ奴も山ほどいた」
拳を握る。
「でもな。あいつらがいた。」
頭に浮かぶのは、
街の皆。仲間達。あの世界の住民。
笑った顔。背中を預けた瞬間。
くだらないことで言い合った日々。
「一緒に戦って、一緒に笑って、一緒に前に進んできた」
アリア、カイル、リナ、ガルド。そして、レイ。
皆の顔が浮かぶ。胸の奥が熱くなる。
「それを“醜い”の一言で片付けんなよ。」
空気が震える。
ゼルディオンはしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……同じだな」
「私も、かつてはそう思っていた」
その言葉に、わずかな“過去”の気配が混じる。
創造神は前をむき直す。
「だがな、未原灯陽」
ゆっくりと、視線が落ちる。
「それでは救えなかったのだ」
空間が軋む。
「誰一人として、な。」
――バキッ
その瞬間、
世界に亀裂が走る。
その奥に無数の守れなかった未来が映る。
手を伸ばしても届かない光景。
選択を誤った瞬間。取り返しの付かない結末。
「だから私は、創りなおした。」
世界が、ひび割れるように揺れた。
老人の杖が軋む。
「……これ以上の議論は無意味か。」
ゆっくりと顔が上がる。その瞬間。
神としての圧が確かに解放される。
「ここから先は、創造で語るとしよう。」
その一言で、世界が戦場へと書き換わった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
始めは父性のある魔王っていう設定だったんですよね~。
設定を練るうちにこうあるべきだと言う結論になりました。
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