第十三話 真相ーーグロリア・コア
第十三話を投稿します!!セラフィム編佳境です!!よろしくお願いします!!
「ルミナスにお越しください」
「真実をお話ししましょう」
賛美神セラフィムは口を開ける。
その声は拒絶を許さない圧を持ちながら、不思議と優しかった。
レイが剣を握る。
「罠だ」
「……でも、ここで暴れても意味はねぇ」
灯陽は静かに言った。視線の先では、カイルたちがまだセラフィムを庇い、恍惚とした表情を浮かべている。
「行くしかないな」
セラフィムは微笑み、光の粒を導くように空へと昇らせる。
「ご安心を。あなた方に危害を加えるつもりはありません」
その言葉の通り、道は自然と開かれた。
人々はゆっくりと道を譲り、同じ笑みのまま灯陽たちを見送る。
――拒めない。
この街そのものに、そう言われているようだった。
「アリア様。貴女もご同行願います。」
その言葉は丁寧で、強制の色はない。
――だが、拒むという選択肢が初めから存在しないかのような重みがあった。
周囲では、住民たちが穏やかな笑みを浮かべたまま、じっとこちらを見つめている。
逃げ場はない。
灯陽は小さく息を吐いた。
「……行くしかねぇか」
―――――――――――――――――――――
やがてたどり着いたのは、光の宮殿の最奥。
「この奥へどうぞ。」
天井を貫くようにそびえる、巨大な結晶。
灯陽は思わず息をのんだ。
「……これが。」
「ルミナスの中枢。“大結晶”です。」
「……ただの魔力じゃない。これは、人……?。おかしいわ。神の教えにはこんなもの無かった。」
「はい。これは禁伝とされており、外部には口外無用とされていた神秘。そして我らセラフィムの本望です。」
「本望?」
その時だった。
大結晶の表面が静かに揺らぐ。
水面のように歪み、そこから――“何か”が現れる。
半透明の人影。
幼いようで老いているようでもある。不思議な存在。
その体の内側には、無数の光がゆらめいていた。
「ようこそ」
声が重なる。
一人ではない。だが一体として響く声。
「私たちは、祈り」
「私たちは、願い」
灯陽は目を細める。
「……人、なのか?」
「かつては」
その存在は微笑んだ。
「今は、救われたものです」
リナが一歩前に出る。
「……個が、混ざってる……」
「争いも、苦しみも、もうありません」
「すべてが満たされています」
灯陽はゆっくりと口を開く。
「……それ、本当に“お前ら”が望んだのか?」
わずかに、光が揺れる。
「望みました」
「救いを」
祈り子は静かに語る。
「数千年前――我らルミナスの民は、神に祈りました」
「我らに幸せを、と」
大結晶の内部で、光がゆっくりと脈打つ。
「そして現れた神は、我らに幸福をもたらしました」
その声には、確かな感謝が滲んでいた。
「しかし、神の力は過ぎたるもの」
「次第に我らの身体は硬直し、やがて朽ち果てていきました」
灯陽の視線が、床に散らばる結晶へと落ちる。
――あれが。
街中に広がっていた結晶。
それが、”人の成れの果て”だというのか。
背筋に、冷たいものが走る。
「そこで、奇跡が起こりました」
祈り子の声が、わずかに明るくなる。
「亡骸から、新たな命が生まれたのです」
リナが息を呑む。
「……転生……?」
「ええ」
祈り子は頷く。
「より神の恩恵に耐えられるように」
「より深く、幸福を受け取れるように」
「我らは幾千の転生を繰り返しました」
結晶の中の光が、一斉に揺らぐ。
「それが――今のルミナスの民なのです」
静寂が落ちる。
灯陽は言葉を失った。
進化でも、祝福でもない。
それはただ――
「……淘汰、じゃねぇか……」
こぼれた声に、祈り子は首を傾げる。
「いいえ」
「これは、救済です」
即答だった。
「苦しみは消えました」
「死すらも、終わりではなくなりました」
「我らは、より完全な形へと至ったのです」
その言葉に、嘘はない。
だからこそ――歪んでいた。
灯陽はゆっくりと顔を上げる。
「……じゃあさ」
一歩、踏み出す。
「その途中で“消えたやつら”はどうなんだよ」
祈り子の光が、わずかに揺れた。
「耐えられなかった者も、やがて次の命として――」
「違ぇよ」
灯陽は遮る。
「今のそいつは、どこ行ったんだって聞いてんだ」
沈黙。
結晶の奥で、光が乱れる。
「……それは」
初めて、言葉が詰まる。
その瞬間――
セラフィムが、静かに口を開いた。
「必要な過程です」
揺らぎを押さえ込むような声だった。
「すべては、最終的な救済のために」
灯陽はその言葉を、真っ直ぐに受け止める。
そして、静かに言った。
「……それ、そいつらが望んだことなのか?」
沈黙を断ち切るように、セラフィムが一歩前に出た。
揺らいでいた光が、再び整う。
「……議論は、ここまでにしましょう」
その声は穏やかだったが、確固たる意志が宿っていた。
「私の願いは、ただ一つ」
静かに、視線がアリアへと向けられる。
「アリア様の“余白”の力を、お貸し頂くこと」
空気が張り詰める。
祈り子たちの光が、一斉にアリアへと向いた。
「あなたなら、届く」
「あなたなら、満たせる」
重なる声。
アリアはわずかに後ずさる。
「……どういう、ことですか……?」
セラフィムはゆっくりと、大結晶へと手をかざした。
「この結晶には、数千年分の祈りが蓄積されています」
「ですが――それでもなお、取りこぼしが存在する」
結晶の内部で、光がざわめく。
「選べなかった者」
「迷い続ける者」
「救いを拒む者」
「あなたの“余白”の可能性の力があれば、それすらも救える」
アリアの瞳が揺れる。
「……すべてを、ですか?」
「ええ」
迷いのない肯定。
「誰一人として、例外なく」
「苦しみも、後悔も、選択の迷いすらも――すべて消える」
祈り子たちが、静かに頷く。
「それが、完全な救済」
セラフィムは、もう一度手を差し出す。
「どうか、お力をお貸しください」
その手は、あまりにも穏やかで。
あまりにも正しく見えた。
――だからこそ。
灯陽の声が、それを裂いた。
「やめとけ、アリア」
短い一言だった。
だが、その場の空気をはっきりと変えた。
「え、でも……。」戸惑うアリア。
灯陽は、まっすぐにセラフィムを見据えていた。
「それ、救いじゃねえよ」
セラフィムの表情が、わずかに揺れる。
「なぜ、そう言い切れるのです?」
灯陽は一歩、前に出る。
「だってそれさ」
一瞬、言葉を選ぶように間を置いて――
「自分で選んでねぇだろ」
静寂。
祈り子たちの光が、わずかに乱れる。
「……選択は、苦しみを生むものです」
セラフィムは静かに返す。
灯陽は首を振った。
「違えよ」
「選ぶから意味があるんだろ」
その一言は、あまりにも単純で。
だが――重かった。
「間違えるのも、悩むのも、後悔するのも」
「全部まとめて――」
「『そいつの人生』だろ」
「それを全部消して、誰の人生になるんだよ。それ。」
灯陽は、セラフィムを真っ直ぐに見据える。
沈黙。
セラフィムの瞳が、わずかに揺らぐ。
「……私は」
言葉が、途切れる。
「私は……ただ……」
周囲の光が、不安定に揺れ始める。
祈り子の声が、ばらつく。
「救い……」
「幸福……」
「間違って……いない……」
統一されていたはずの声が、乱れる。
灯陽は、静かに続けた。
「なぁ」
「それ、本当に“あいつらが望んだ形”か?」
その問いは、優しかった。
責めるのではなく――確かめるような声。
セラフィムの視線が、大結晶へと向く。
脈打っていた光が、今は不規則に揺れている。
「……望まれた、はずです」
「そう祈られた」
「だから私は――」
言葉が、止まる。
「……選ばれていなかった……?」
その瞬間。
祈り子たちの姿が、ぶれていく。
「わたしは……」
「ぼくは……」
「わたしたちは……」
一つだった声が、分かれていく。
「……選んで……いない……?」
静かに。
本当に静かに――
大結晶の光が、ほどけ始めた。
無数に存在していた気配が、消えていく。
結晶の輝きも、ゆっくりと弱まっていく。
ただ――
“支えていた前提”が、消えた。
長い沈黙の後。
セラフィムは、小さく息を吐いた。
「……なるほど」
その声は、どこか穏やかで。どこか、軽くなっていた。
「私は……急ぎすぎたのかもしれません」
光が、さらに静かに散っていく。
「救おうとするあまり……」
「選ばせることを、忘れていた」
街の奥で、人々のざわめきが戻り始める。
ゆっくりと。
確かに、戻っていく。
世界が戻っていく。
灯陽は、それを見届けてからぽつりと言った。
「……神にも良い奴はいるんだな。」
光は消える。
ただ、光り輝く国を遺して。
ご視聴ありがとうございました!!
面白いと思っていただけたら
ブックマークや評価、感想などいただけると励みになります!




