第十二話 宗教国家ルミナスへ
第十二話を投稿します。セラフィム編中盤です。よろしくお願いします。
「出発だ!!浮上するぞ!!」
カイルの声と共に石でできたドラゴンが翼を広げ、今飛び立った。
ヴェルオリオンの町並みが小さくなっていく。
結局ルミナスへは行く運びとなった。
あいつは数日前から街の人々を救い続けていたらしい。
四機神とは敵対すると思っていたのだが、こう迫られると住民の声もあり弱い。
四機神の罠かも知れないと言うことを念頭に入れ、レイはもちろん周到な用意を練って行くことにした。
「俺、ドラゴン乗ってみたかったんだよな!!」
灯陽が歓声を上げる。
「……う、うわぁ、飛んでます!!飛んでます!!」
リナが目を丸くして、思わず口を押さえる。
手が微かに震えていた。普段は書類整理ばかりの神官が、今まさに空に浮かんでいる。
アリアは留守番だ。杖を持っているし街の守備を担当してもらうために残ってもらった。
その代打としてリナが選ばれた。リナは神官にしてアリアの先輩。
神の知識を有していて、余白の杖の力も紋章に分けて貰えば多少なら使えるらしい。
これ以上無い人材と言うわけだ。
「大丈夫です。落ち着いてください、皆さん。」
リナは必死に声を振り絞り、周囲をなだめるように言う。だが自分も少し怯えているのが分かる。
「うおおお……俺たちの街って小さかったんだなぁ……。」
「灯陽さんは良く大丈夫ですね……」
兵士達は空を怖がる者も多い。当然だ。皆、空なんて飛んだことない。
「あー、まあな。飛行機で慣れてるから。」
「ヒコーキ?ですか?」
リナが首をかしげる。
「あー、まあドラゴンみたいなもんだよ。こんな落ちそうな感じじゃないけど。」
「安全なドラゴンも居るんですね……。」
「はは……。」
ヴェルオリオン航空なんて作ったら案外人気でるかもな。
ドラゴンじゃ安全性が足りないか。
カイルは笑いながらドラゴンの首をなでる。
「ほら、落ち着け。お前らが怖がる必要はねぇよ。こいつらはブルちゃんと同じで俺らの仲間だ。俺たちを傷つけたりはしない。」
「ふ、ふー……なるほど……」
兵士たちは必死に呼吸を整える。羽ばたきの風が全身に伝わる中、少しずつ恐怖を楽しさに変えていく。
「それに、落ちたらこいつが拾ってくれるさ。」
灯陽の隣に控えるはレイ。
選定神の戦いにより復活せし漆黒の騎士だ。
「ああ、任せろ!!全員拾ってやるさ!!フハハハハハハハ!!」
ひさびさに聞くレイの高笑い。
とてもやる気になっているのが分かる。
「うおおおおおおお!!!」
兵士達は思わず声を上げる。恐怖など吹き飛び、初めて空を飛ぶ感覚に心を躍らせるのだ。
「見てください!!あの川、あの市場、全部見えます!!」
リナが指を差しながら感嘆する。興奮で目が輝いていた。
全てを乗せて石龍は空を進む。
その遙か先。
雲の向こうに
光の都ルミナスが待っていた。
希望と不安が混ざる空の旅が、今、幕を開けた。
―――――――――――――――――
雲の海を抜けると、遠くに輝く都市の光が見えてくる。
「……あれがルミナスか。」灯陽は息をのむ。
「すげえ!!街が光ってるぞ!!」カイルは楽しそうだ。
ドラゴンは街の外周にそびえる大きな城門――光の門へと近づく。
門の両脇には翼を持つ魔獣の衛兵が立ち、威厳ある姿で街を見守っている。
門をくぐると、街路に点在するクリスタルが淡く光り、住民たちや魔獣の姿が現れる。
「正式な門を通ることで、街の秩序が守られているのね」リナがつぶやく。
灯陽は肩をすくめて笑った。
「なるほど……ただの観光じゃなくて、ちゃんと街の中に入ったって感じがするな」
「ようこそお待ちしていました。灯陽様。」
セラフィムは手を差し伸べ、柔らかい光の粒を周囲に舞わせる。
「ルミナスの街を守る者として、正式にお迎えします。まずは街をご覧になってください」
その瞬間、セラフィムの横から巨大な生物が飛び出した。
「うわっ!!魔獣だ!!」カイルが叫ぶ。
セラフィムは穏やかに首を振る。
「魔獣? 違います。彼は神獣――私の権能《顕聖》によって進化した存在です」
灯陽たちの視線が神獣に向く。光を帯びた翼、威厳ある瞳。すると、神獣が低く響く声で話した。
「私の名はアゼル。街を守護する神獣です。」
アゼルは静かに翼を広げ、灯陽たちを歓迎する。
「灯陽様、人間の力も必要です。協力して街を守る意志があるなら、共に歩みましょう」
街の門前で、神の威厳と守護者の力を前に、灯陽たちは改めてルミナスの世界の大きさを実感するのだった。
灯陽たちは光の門を抜け、繁華街へ足を踏み入れた。空気に微かに魔力が混ざっている。
目に映ったのは、普通の人間ではなく、まるで天使のような存在たち――背に透き通る翼を持ち、光を帯びた衣を纏う者たち――が商店で品物を売ったり、子どもたちと遊んだりしている光景だった。
その隣では、進化した獣たちが人間の言葉で会話し、荷物を運んだり、道端で小さな商売をしていた。犬のような顔立ちだが二足歩行で立ち、手には器用に魔力を込めた道具を持っている。
「……普通の街じゃないな……」灯陽は思わず声を漏らす。
子どもたちは光る結晶の上で跳ね回り、大人たちは商談や作業に忙しい。街のあちこちに設置された光のクリスタルが、まるで人々の生活を柔らかく照らしている。
灯陽は足を止め、深呼吸した。……なんだか異世界に来たって感じがする。
「この結晶はなんだ?色んなところに散らばってるな」
リナはその光を手で受け止めるようにかざす。
「ああ、それは『ルミナスの結晶』街全体に魔力を循環させ、病や疲労を癒やしているの。」
灯陽は目を見開き、思わず息をのむ。
「……すげぇな。街全体が生きているみたいだ」
「お詳しいですね。神学を学んでいらっしゃるのですか?」アゼルが感心する。
「ええ。昔、神官をしていたので、四機神には精通しているんです。」
「神官の方でしたか、これは失敬しました。」
「昔ですがね。うふふ。」
解説を挟みながら国交を深めているリナ。とても楽しそうだ。
灯陽は再び周囲を見渡す。光る街と、翼を広げる天使、人語を話す進化獣――街の生命のような光景に、ただただ圧倒されるのだった。
通りを進むうちに、街の中心にそびえる巨大な建造物が視界に入る。透明感のあるクリスタルが塔状に伸び、光の粒が空中に舞うその姿は、まるで街そのものが王であるかのような威厳を放っていた。
「ここが光の宮殿です。街の魔力の中枢と繋がっており、私たちセラフィムの拠点でもあります」
セラフィムは微笑みながら灯陽達を案内する。
門前には翼を持つ衛兵が立ち並び壮観な景色だ。中庭に足を踏み入れると、浮遊するクリスタルや天使のような人々、進化獣たちが整然と配置され、街全体の魔力がここに集まっていることがひしひしと伝わってくる。
「灯陽様、それからご一行の皆様。この光の宮殿にて、ルミナスとあなた方の同盟を正式に結ぶための準備を整えましょう」
灯陽は拳を軽く握りしめ、静かに頷く。
「わかった……協力する。」
セラフィムは光の粒を舞わせ、柔らかく微笑む。
「同盟は、街と人々、そして神獣たちの未来のために。共に歩んでいただけますね」
灯陽は深く息を吸い込み、周囲を見渡した。
天使のような人間、進化した獣、そして街全体を包む光――この街の生命のような景色の中で、彼は自分の役割を改めて感じた。
「わかった……俺たちの力も、街の力になるんだな」
光の宮殿の中庭に、街全体を見守るセラフィムの威厳と、守護者である神獣の存在感が重なり、灯陽たちは未来への一歩を踏み出すのだった。
―――――――――――――――――――――
ルミナスとの同盟が正式に結ばれると、灯陽たちは街の中心を歩きながらその成果を実感した。
商隊の数は増え、露店には遠方から運ばれた珍しい品々が並ぶ。
街全体を巡る紋章の光は以前より強く輝き、人や魔獣の生活に活気を与えている。
「すげぇ……同盟の効果って、こんなにすぐ出るんだな」灯陽は感心する。
リナも微笑みながら頷いた。
「力の循環が強化されたから、交易も生活も豊かになったのね」
天使のような人間たちは子どもたちと遊び、進化した獣たちは商売や運搬に忙しく、街のあちこちで活気が溢れている。
灯陽は思わず拳を握りしめた。
「……俺たちの力も、少しは役に立ってるってことか」
だが、数日後、街の様子に微妙な違和感が現れ始めた。
通りを歩く人々は以前と変わらず笑顔を浮かべているが、どこか陶酔したようで、動きも緩慢になっていた。
そして足元には、普段は道端の装飾として輝いていたクリスタルがいくつも落ちている。微かに光はしているが、かすかに歪んで揺れていた。
その時、後ろから慌てた声が響いた。
「街の人たちがおかしいの!!」
振り返ると、アリアが駆け寄ってきた。
顔には焦りが浮かび、手を大きく振りながら叫ぶ。
「ほら!みんな、まるで……夢でも見ているみたいにぼーっとしてる!!働くでも遊ぶでもなく、ただ寝転んで――」
灯陽はアリアの指差す方向を見る。
確かに、通りにいる住人たちは笑顔を浮かべながらも、どこか無力で陶酔した様子で、街の活気とは裏腹に異様な静けさをまとっている。
リナは光るそれを握りしめ、眉を寄せる。
「……これは……セラフィムの仕業かしら……」
「神の力なら、なんとかなるかも……!!」
アリアの手から柔らかい光が広がり、一人を包み込む。
「え、あれ……俺、何をしてたんだ?」
陶酔していた人々が徐々に正気を取り戻し、目をぱちぱちと瞬かせる。
魔獣たちも同様に、行動を再開するが、まだ少しぼんやりしている。
そこへ突如として光の粒が渦を巻きながら輝きを増す。
「あれは……。」見たことのある面影が姿を現した。
光の中心から現れたのは、柔らかな光に包まれたセラフィムだった。
その姿を見た瞬間、レイは剣を構え、鋭く斬りかかった。
「貴様……!」
「無駄です。」
二つに切ったはずのセラフィムは上下で分裂し再生。二人のセラフィムと化した。
斬ったはずのセラフィムが街の角から飛び出す。
「私は、無限に点在する神。」
パン屋の脇、道路の隅、空の上、無限に現れる。全てが同一個体。
「それが私、セラフィムなのです。」
「セラフィム様を守れ!!」
街のあちこちから無数の天使のような人間や進化した獣たちが次々と現れ、彼の周囲を取り囲む。
彼らはまるで意志を持ったかのように、レイを制止し、セラフィムを庇った。
「ぐっ、カイル!!目を覚ませ!!」
カイルはレイにすがる様に邪魔をする。
「お前達が目を覚ませ!!セラフィム様は俺たちに幸せをくれたじゃないか!!」
「何が望みだ!!」
灯陽はセラフィムに叫ぶ。
セラフィムは張り付いた笑顔を浮かべ、
「ルミナスへお越しください。灯陽様」
と言った。
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