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第十話 激突 選定の騎士--選定神ヴァルハイト

第十話を投稿します。よろしくお願いします。

遠くの空に、白き鎧の騎馬が見えた。

一騎、また一騎と、ヴァルハイトの騎士団が近づいてくる。

胸の奥がざわつく。街の刻印は静かに光り、微かな警告を送る。


「……来たな。」

灯陽は黒剣を握り直す。

アリアは隣で身構え、紋章の光が指先で瞬く。


空が割れるような轟音と光。

雲が裂け、雷のような光が街を貫く。


『再び答えを聞こう、灯陽。』

天から姿を現したのはあの姿、理想の英雄レイを消した、忌まわしき神だった。

『今の貴様に剣はない。』

『さあ、服従せよ。そして、選定せよ。』


「はははは!!!」

灯陽は笑う。笑いが寒気と光の間に響き渡った。

その声は、恐怖を払拭し、街の刻印に応え、微かな振動となって大地に伝わる。

しばらくして、


「服従だと?やなこった!!」


灯陽の言葉は、街の隅々まで響き渡った。アリアやカイル、リナ、ガルドはもちろん、老婆や子供、難民の人々にまで響き渡る。

それまでかすかに城内にあった恐怖が今、止まり、絶望は、今希望に変わる。


「行こう、皆――俺たちの国を守るんだ!!」


歓声が沸く。


『そうか。それが貴様の答えか。』

『では騎士団よ。文字通り完膚なきまでに』


『――潰せ』


騎士団は剣を突き立てる。


ゴゴゴゴゴゴゴと言う爆音


『我が主のために』

『外敵を殲滅する!!』


オオオオオオオ!!!!!!という狂気にも似た叫び。

『『『機神契約・―――』』』

空には巨大な紋章。

「灯陽よ。せめて一撃で国ごと葬ってやろう。」

騎馬に乗る騎士団長の剣。全ての力を集約した強大な光の刀身。それはまるで、一つの城。


断罪聖剣(ディバインソード)


光が国を襲う。レイを抑えた防御の権能とは逆の、攻めの権能。


もはや絶体絶命か。


そう思われたその時。


「アリア。」


「“余白”よ。この国を守って!!!」


ブオオオンと空に紋章が浮かぶ。光の奔流は国の見えない結界によって阻まれる。

すさまじい力のぶつかり合いだ。

「何!?」


「やったね!!灯陽。」

「ふう、よかった。アリア。」


少し前に遡る。

俺がアリアのデザートを解らずに食べてしまい、国の門から出された事から始まった。

「アリア!!俺が悪かったよ。だから家に入れてくれ!!」

「ふん。今日は野宿しなさい!!」

「話を聞いてくれよ!!」俺は門を叩こうとした。しかし、


「はぁはぁ、あれ?なんで……?」

歩いても歩いても門までたどり着かない。

結局次の日まで俺はカイルに助けて貰い、野宿をする羽目になった……。


うん。つまり、“余白”とはアリアの意思。アリアが拒絶すればそれは拒絶される。

“余白”とは可能性。可能性は弱きものに多く宿る。その人数が多ければ多いほど……。


己が閉ざした相手と物理的な“余白”を開けられる。


つまり騎士団長の攻撃は届いていない。


「我が神剣が防がれた、だと?」

呆然とする騎士団長。


「いくら歩いても城門に届かねえ……。」

「どうなってるんだ!?」


敵の兵団は国の防衛力の高さに戸惑っているようだ。


「今だ!!反撃!!」

「行くぞ!!野郎共!!」「「「おう!!!」」」

腕をかざす男達。土の紋章が光る。城壁がせり上がる、そこから光るは二十門の巨大な大砲。

「ガルド建設特注の紋章大砲よ!!一発で城壁もぶち抜けるぜ!!!」

「食らいやがれ神の犬共ォォォォ!!」

ドドドドドドドドド!!!巨大な砲撃の奔流が飛び出す。

火、水、土、風、4種の力を利用したその砲弾は騎士団の前衛に直撃。


「うわああああああ!!」

騎士達は吹き飛ばされ、白き鎧が散る。

「神の力をこんな野蛮なことに使いおって。逆賊め……」


アリアは叫ぶ。

「ブルちゃん達!!この城を守って!!!」

その呼びかけに呼応し、石壁からは獣たちが現れる。

「魔物!?なぜここに!!」

「災獣相当複数だと!?チッ!!厄介だな!!」


騎士団の混乱は続く。


「そろそろ俺たちも行くぞ!!ハッ!!!」

カイル率いる石鷹部隊、吶喊。

「奴ら、魔物に乗って空を!!」

「なにぃ!?」


「縄を放てえ!!」

石鷹部隊が投げたのは縄。ギュルギュルと騎士の身体に巻き付く。

「な、何だ!?」

「よし、上昇!!」

「うわあああああ!!!」

縄を足に引っかけられ空へと連れ去られる騎士。かわいそうに。

「よーし!!偉いぞ!!ホーク!!」

「クルル!!」


俺は黒の剣に手にかけた。

「まだ。」

アリアは俺を止めた。

「無理はこれから。ギリギリまで取っておくの。いい?」

「……ああ。」


改律神を倒した最強の英雄の剣。俺たちの唯一の希望。それを使うにはまだ早かった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


「「「「うおおおおおおおおお!!!」」」」

声が戦場に響き渡り戦況をさらに優位に変えていく。


しかし、

どこからともなく響く低く厳かな声――

「何をしている、我が使徒たちよ。」


声と同時に、騎士たちの動きが一瞬止まる。光の紋章や魔力がわずかに揺らぎ、空気が張り詰める。


「申し訳ありません、我が主……」

震える声で、騎士たちが頭を垂れる。忠誠と恐怖が入り混じった響き。


『もういい』

声は低く、しかし断固たる響き。そして。


空が裂ける。

雲の奥から現れたのは、騎士たちとは比べ物にならない巨大な白銀の鎧。

まるで一つの城が空から落ちてくるかのようだった。

重い音と共に、それは空中で静止する。

その胸には、騎士たちのものよりも遥かに巨大な神紋。

ヴァルハイト。

神そのものだった。


「おおおお!!!我が神が参戦されるぞ!!これは心強い!!!!」

騎士達の士気が上昇する。


「真打ちのお出ましって訳か……。」

「おい……。」「大丈夫かよ……。」

住民たちは後ずさる。


空に浮かぶヴァルハイトが、ゆっくりと手を掲げた。

その掌の下で、倒れた騎士たちの身体が光に包まれる。


『我が使徒たちよ。』

倒れた騎士達の身体を光が包む。

「おお!!神の光が我が身体に!!」

ヴァルハイトは淡々と告げた。

『選定とは、価値を量ることだ。』

騎士たちの紋章が一斉に光り出す。

『戦えぬ者に、形は不要。』

次の瞬間。

ゴキン。嫌な音が鳴った。

騎士の身体が硬直する。

「え……?」

白い鎧が、ゆっくりと形を変え始めた。

腕が伸びる。脚が折れる。鎧が溶けるように再構成される。

「やめ……やめてください……!!」

叫びは途中で止まった。

騎士の身体は完全に一本の巨大な剣へと変わった。

城壁の上で誰かが叫ぶ。


「騎士が……剣になった!?」


二人。三人。十人。


空に浮かぶ騎士たちが次々と変形し、白い神剣の群れへと変わっていく。

まるで空に浮かぶ剣の森。ヴァルハイトはそれを見下ろした。

『これが選ばれぬ者の役目だ。』

手を振り下ろす。

『世界の礎となれ。』

次の瞬間。

神剣の群れが、王国へ向かって落下した。

ズドオオオオオオオオオオオオオオ!!!


大気が裂ける。剣の流星群。

城壁の上の兵士が叫ぶ。

灯陽が目を見開く。


「……マジかよ。」


空を埋める白い剣。

その数――数十。

神の兵器となった騎士たちが、一直線にヴェルオリオンへ降り注ぐ。


「“余白“よ!!!守って!!!」


アリアの杖が光る。

ドゴォォォォォン!!!


最初の一本がアリアの防壁に直撃。

さらに――

ドドドドドドドドド!!!!


「ぐぅううう!!!」

余白の杖が光りを増す。アリアは苦しそうだ。


次々と落ちる神剣。大地が揺れる。

城壁が軋む。


『弱者を礎とし、強度を上げているのか』

『くだらぬ。』

『我が権能《選定剣ノア》』

『弱者を排除せよ。』


次の瞬間。


「は……?」


第二区画の住民たち。兵士の後ろに居た老人。

逃げ遅れた人々。子供。職人。

消えた。

全てが、

まるで最初から存在していなかったかのように。


「うそでしょ……。」

途端に杖は光を失う、

力の一端を担っていた住民が消えてしまったことで、

余白の力は急激にその力を失う。

アリアは絶望を隠せない。


神は告げる。

『進め。』


騎士団長、アルトゥスは剣を掲げる。

「我が主の御技により弱者共の忌々しい防壁は消えた!!」

「行け!!騎士達よ!!蹂躙だ!!!」

「オオオオオオオオ!!!!!」

騎士達は突き進む。町を破壊しながら。

「全軍退避!!!政庁まで退避!!逃げろ!!!」


灯陽の声が響く。兵士たちが必死に騎士を押しやる。

「こっちだ!!走れ!!」

しかし騎士は止まらない。

ザシュッ。

逃げる兵士の背を白い剣が貫いた。

「ぐっ……!」

兵士が崩れ落ちる。騎士はそのまま踏み越えて進む。

「逆賊の街を浄化せよ。」

淡々とした声。アルトゥスの剣が光る。

その一振りで建物が真っ二つに裂けた。

ドガァァァァン!!!


瓦礫が舞う。城壁が軋み、瓦礫が崩れ落ちる。

巨大な神の鎧がゆっくりと街へ踏み込んでくる。


「カイル!!」

「おう!!乗れ!!」

俺は石鷹に乗せてもらい、迫る巨大鎧に急接近する。

本丸の神はむき出し。今!!今!!ここで斬るんだ1!


「目覚めろ!!終焉虚界神剣(カオス)!!!」

漆黒の英雄が遺した最強の剣。神断ちの剣。

それは暴風を解き放ち、獲物を狙っている。

「行っけええええええええええええええ!!!!!」


黒い斬撃が放たれる。


パキィィィィイン!!

甲高い破砕音が空に響いた。

黒き斬撃は神の前で粉々に砕け散った。

平凡な人間が解き放った不完全なそれは、

神には意味を成さないのであった。


『灯陽。それは貴様の剣に非ず。主なき剣など魂のない土塊に過ぎぬ。』


巨大な鎧の瞳が俺を見下ろす。

黒剣が俺の手の中できしむ。

まるで力を拒むように。


「っつ……!!」

俺にはあの剣を使った代償がやってくる。かすむ目。鉛のように沈む身体。

長い距離を全力で走り続けた後みたいなあの脱力感が俺を襲う。


ヴァルハイトはゆっくりと手を掲げた。

天が光る。そして口を開いた。


『お前の国の強さの源は灯陽。貴様自身の存在だ。』

『よって、最後の希望を断つ』

『我が権能《選定剣ノア》』

『灯陽がもつ一切の記憶を―――』

『排除せよ。』


巨大な鎧の手のひらから剣が光り輝く。


その瞬間。


あれ、俺は何で空にいるんだ?


頭が痛い。

視界がかすむ。

手のひらにはボロボロの剣。


『終わりだ。』


??????の巨大な拳がすべてを飲み込む。

それは目の前すべてを覆うくらいに。


「○○!!○○!!」


横でさけぶこえがきこえる。

こいつはだれだ?


なんで俺――


いや、


と、も、はる?


おれは、ただ落ちていく。

底のない闇の中を。

音もない。

光もない。

体の感覚すら薄れていく。

このまま消えるのか――

その時だった。

ドクン。

心臓が鳴る。

ドクン。

もう一度。

ドクン、ドクン、ドクン。


何かが、おれの中を駆け巡る。


俺の中のページが一つ、また一つ再生していく。


まばゆい光。


その先に、男がいた。

見覚えのある、なぜか少し恥ずかしさを感じる、あの男が。


「待っていたぞ!!我が盟友!!」


白いキャンバスに色が付くように。

乾いた大地に水が染み渡るように。

消えたものを取り戻した。


黒い外套、輝く鎧、金の瞳。俺はこの姿を知っている!!


「汝らの恐怖、我が焔で焼き払おう!」


――――――――――――――――――――――――――


俺はこの姿を知っている。


男はゆっくりと手を広げた。

その背後に、炎が渦を巻く。


その男は俺を宙で捉え、優しく着地した。


「……何で。」

男は静かに言う。

「呼ぶ声が聞こえた。お前の心の奥底からな。」


ーーその言葉。

それは全ての始まり。


全く同じ声、同じ笑み。


「言っただろう?」


「ここまでよく耐えた。流石、我が創造主。」

「ーー後は任せろ。」


ドクン。鼓動が響く。

次の瞬間――

割れた鏡のように散っていった記憶が、一斉に戻ってくる。


戦い。

仲間。

街。

全てがつながる。


崩れかけていた街の景色が、まるで時間を巻き戻すかのように形を取り戻していく。

倒れていた人々が、次々と顔を上げる。


次第と記憶が戻っていく。

街が戻っていく。


「……あれ?なんだ?」

「うお!!騎士団!!」

口々に驚きの声を漏らす村人達。

村人達の視界には、憎き白の騎士達。


だが――

もう絶望ではない。


そして目の前には見覚えのある少女の姿。


見慣れた杖。

見慣れた瞳。


「アリア!!」

少女は力強く頷いた。

「うん!!」


アリアは杖を構え唱える。


「―――“余白“よ!!この街を守って!!」


杖がまばゆい光を放った瞬間、

世界が揺らいだ。

ゴォオオオオオオオオオオオオ!!

空間がねじれ、見えない何かに押し出されるように、

白い鎧の軍勢を吹き飛ばす。


「ぐああああ!!」

「街の外に引き寄せられる!!!」


その姿を選定神はただ、佇んでいた。


兵が宙を舞い、盾が砕け、剣が空に散る。

一瞬で、戦場は静まり返った。

そして。


その中心で――


選定神ヴァルハイトだけが静かに佇んでいた。


『なぜだ。なぜ……』

“余白”の力は、選定神と同格の神、改律神アウレリウスの力を譲り受けたもの。

同格の神の力は抵抗が効くらしい。街の外に出されることはなかった。

しかし、


人を切り捨て続けた選定の神は皮肉にも、世界から切り離された最後の一人になってしまったようだ。


「総力戦だ!!たたみかけろ!!」


職人、兵士、老婆や子供のような住民たちまでが紋章を行使する。


微弱な土達は寄り集まり神の鎧を固定する。

そよ風は強大な向かい風となり神の拳を食い止める。

小さな火種は巨大な火球と化し鎧を溶かす。

一滴の滴は水流となり神鉄を穿つ。


「「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」


『押し戻される……我が剣よ!!全てを排除しろ!!』


再び頭上の剣が光る。


しかし、俺たちは消えない。


『なぜ消えぬ!!』


焦る神の元に一人の姿。

「哀れだな。選定の神よ。」

ゆっくりと視線を向ける。

「餞だ。」


「ーー破壊をくれてやる。」


その前に立つのは―――

漆黒の勇者、レイ=アルカディア。


「抜錨。 |終焉虚界神剣(カオス)


神断ちの剣。レイ=アルカディア最強の剣。

主人の意のままに現れ、意の者を斬る魔剣。

現れるだけでこの威圧感。迫力。


空が震える。大地が沈む。

まるで世界そのものが、この剣の存在を拒絶しているかのようだ。


使用者が変わるだけでこれほどまでの力があるとは。


レイの周囲に集まるは破壊の力。

闇。

闇。

闇。

それは終わり。世界の終焉そのもの。

ヴァルハイトが初めて恐怖する。

神ですら理解する。

これは――触れてはならない剣だと。

「フィナーレだ。」

その言葉と同時に、黒き剣が天を差す。

世界が凍り付く。

そして―――


天断・終焉(プラチナ・エンド)


振り下ろされた一閃は、

空を断ち、神を断ち、

選定という理を

この世界から断ち切った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


音が消えた。

風も、炎も、悲鳴も

全てが凍り付いたように静まりかえる。

世界が、息を止めた。


そして――

ヴァルハイトとの巨大な鎧に黒い線が走る。

一本。

また一本。


鎧が崩れる。

ガラ……ガラガラガラ……!!

白い装甲が空から崩れ落ちる。光の剣が次々と砕け散る。

空を埋め尽くしていた神威が、まるで砂の城のように崩壊していく。

ヴァルハイトは空の中で膝をついた。

「馬鹿な――」

「神が、……人などに……!!」


「違う。」


その言葉の続きをレイが遮った。


「神の理想も灯陽の理想には届かなかった。それだけだ。」

レイは遠くを見据える。

その瞳は静かだった。


ヴァルハイトの身体が崩れ始める。


鎧がバラバラに崩壊し、砂になっていく。


「……中身はがらんどうってか。」


灯陽はつぶやく。

大義名分を掲げ街を侵略する選定の神。

その本体は、中身無き空っぽの鎧だったのだ。


ヴァルハイトの身体は、完全に崩れた。

最後に残った光が、ふっと消える。


そして。


長い沈黙のあと――


地上から声が上がった。


「……勝った?」

「終わったのか?」

「神が……消えた?」


人々が空を見上げる。


騎士団は崩れ落ち、

神の力は消え、

戦場は静まり返っていた。


―――――――――――――――――――――

神は消えた。空に残るのは、ただの青空。

長い沈黙が戦場を支配する。

やがて――

「……団長。」

騎士の一人が震えた声を出す。

「我らの神が……」「消えた……?」

選定の騎士たちは、剣を握ったまま動けない。

その時。

瓦礫の中から一人の男が立ち上がる。

騎士団長、アルトゥス。鎧は砕け、マントは裂けている。

それでも彼はまっすぐ立った。

しばらく空を見上げ――

そして、ゆっくりと剣を地面に突き立てた。

ガン。

その音が響く。

「……もうよい。」

アルトゥスはゆっくりと歩き出した。

ガシャン……ガシャン……

壊れた鎧を引きずりながら、灯陽の前まで来る。

そして。

騎士団長は剣を抜いた。騎士たちが息を呑む。

だがアルトゥスはその剣を――

くるりと反転させ、柄を灯陽に向けて差し出した。

「……我らの敗北だ。」

低く、静かな声だった。

「我らは神の名の下に戦い、敗れた。」

「ならば責任は騎士団長である俺にある。」

アルトゥスは膝をついた。

ガン、と鎧が地面に落ちる。

「灯陽。」

顔を上げる。その目には、もう戦意はなかった。

「俺の首を取れ。」

騎士たちがざわめく。

「敗軍の将の責務だ。」

「神の名で剣を振るった報いは、俺が受ける。」

戦場が静まり返る。灯陽はしばらく黙っていた。

そして――

差し出された剣を取る。騎士たちの緊張が走る。

だが次の瞬間。

カラン。

「いらねぇよ。」

灯陽は剣を地面に落とした。

アルトゥスが目を見開く。

「……は?」

戦場に風が吹く。

騎士団が凍りつく。

「神に従って。弱い奴らを踏みつけて。それで負けた。」

一歩近づく。

「なあ、アルトゥス。」


「それって――弱者だろ。」


アルトゥスの拳が震える。

灯陽は言った。

「だから死ぬな。」

その言葉に、アルトゥスの顔が上がる。

灯陽は真っ直ぐ言った。

「生きろ。そして否定しろ。」

「お前が信じた神を。」

静かな声だった。だがその言葉は、戦場の誰よりも重かった。

灯陽は街を指した。壊れた城壁。

それでも立っている人々。

「証明してみろ。」

「お前の手で。」

アルトゥスの目が震える。長い沈黙。

そして――

騎士団長は、深く頭を下げた。

「……命令を受ける。」

騎士たちが息を呑む。

アルトゥスは言った。

「騎士団長アルトゥス。」

「この日より――神の否定をする。」

その言葉は、

騎士団の歴史を覆す宣言だった。


「騎士団、剣を収めよ。」

一人。

また一人。

騎士たちが剣を地面に置く。

カラン。

カラン。

戦争は終わった。

その光景を見て、

街の人々はまだ信じられない顔をしていた。

そして――

アリアがぽつりと言う。

「……え?」

「これって……」

灯陽は苦笑した。

「多分だけど。勝ったっぽいな。」

その瞬間。街中から歓声が爆発した。

「勝ったああああああ!!」

「神に勝ったぞ!!」

「ヴェルオリオン万歳!!!」

戦場は歓声に包まれる。


そして、アリアが笑う。

「……守れたね。」

灯陽は空を見る。

神はもういない。

「いや。」

小さく笑った。

「ここからだ。」


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