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第一話 既視なる騎士 レイ・アルカディア

はじめまして、夢見酔です。

読んでいただけたら嬉しいです。

ガチャ。と言う孤独な音が鳴った。


部屋は静かだった。

未原灯陽みはらともはる。25歳独身。しがない会社員。

今日も世界を救えなかった。


おれは帰って来るなりソファーに寝転がりつぶやく。

「明日なんて来なきゃいいのになあ。」

憔悴しきった日々が俺の日常だ。


秒針が、夜を刻んでいる。

ふと床に目をやる。何かが落ちている。


「ん?」


見えたのは一冊のボロボロの黒いノート。

表紙には銀の文字。


――終焉黙示録(ラスト・アポカリプス)


「あー。」


中学の頃に書いた、最強の勇者の物語。

自分でも読み返せば赤面する代物。


俺はなぜかその日はその世界を久々に覗きたくなっていた。

取り出して読んでみることにした。

「……ははっ」


ページをめくる。

恥ずかしい中二的設定の数々。

あの頃は本当に世界を救う勇者になれると思っていた。

黒き勇者 レイ=アルカディア。


二つ名はその時々で適当にかっこいい名前に変わるんだこれが。

レイってのは、俺の名前 灯陽の陽の字から太陽光を連想した、つまりray ってこと。

「流石に無理あるだろ。」

と苦笑を漏らす。


ページを進める。


神を断つ剣、天魔の鎧。

最強最大の魔力。全てを焼き尽くす黒い焔を持つ最強の勇者。


だが、本当に凄いのは

それを持つ伝説の英雄レイ=アルカディアその人。

弱きを助け巨悪を挫く、本物の勇気を持った英雄的人物。


彼のようであれば、

俺の人生も少しはマシになっただろうか。


「くだらねー。」

と、ページを閉じようとした。

その瞬間だった。



ページの端が、微かに熱を持った。


「……?」


指先が焼けるように熱い。


文字が、歪む。


世界が、反転した。


次の瞬間、灯陽は森に立っていた。


湿った土の匂い。

冷たい風。


「は?」

俺、家に居たよな。

酔い潰れてここで寝てたんだろうか。


「やばい。」

ともかく家に帰らなければ。ここはどこだ。

携帯は……あるな。


「は!?」

まさかの圏外。


そして――唸り声。


「なんだ。」


黒い獣が木陰から現れる。


「ガウウウッ!!!」

「うわあ!!」


間一髪で奴の爪をよけた。

血!?血だ。久しぶりに見た。

野犬!?これは危険だ。

とにかく逃げろ。


「う、うわああああああ!!!」

背後から迫る死。


逃げろ。


俺は一心不乱に駆けた。


だが足は非情にも長くは持たなかった。


「ぐあっ!」

よろけて転んだ隙に野犬の群れに囲まれてしまった。


俺は目をつぶった。

死ぬ!!!!


しかし、その背後には、人影。


「待っていたぞ。我が盟友。」


その時、炎が夜を裂いた。


「我が名はレイ=アルカディア!!」


眩い火柱が獣を呑み込む。


黒い外套、輝く鎧、金の瞳。俺はこの姿を知っている!!


「汝らの恐怖、我が焔で焼き払おう!」


――いた。


ノートの中の勇者が。


灯陽の“理想”そのものが。


―――――――――――――


奴が振り向き、微笑む。


焔が消える。


沈黙。


「……何で。」


「呼ぶ声が聞こえた。お前の心の奥底からな。」

奴はそう言った。



灯陽の胸に、奇妙な感覚が走る。

これは、怒り?



「俺は!!お前が失望して助ける価値も無いくらい!!惨めで情けない人生を送ってきたんだ!!

なのに、なんで今更……。」


声が震える。胸の奥で何かが壊れる音がした気がした。恥と悔しさが、言葉となって吐き出される。


レイはその言葉を、一度だけ静かに受け止めるように目を細めた。金の瞳の奥に、風で揺れる蝋燭のような揺らぎが見える。


「違う。」

「お前はかつて英雄だった。それを忘れているだけだ。」

その言葉で忘れていた感触、光景、苦い記憶。それらが一斉にあふれ出した。


「お前は、いつも逃げてきた。過酷な現実に、みすぼらしく夢を捨ててしまったんだ。」


「ああそうだよ!!俺は何もかも諦めてこうなったんだ。笑うかよ!!」

悔しい。俺の過去に失望されたのがなによりも悔しくて言ってしまった。

ああ、なんて意味の無い台詞だ。


「だが。」

「ここに俺がいると言うことは、あの日売ったはずの夢は、未だ静かに燃えている。」


「お前が俺を作った。だから今度は俺がお前を作る番だ。」


目の前にはあの日空想した、夢に燃えた真っ直ぐな目つき。


「さあ。俺と行こう。灯陽。」


レイが差し出したのは、暖かい手だった。大げさな英雄の身振りではない。ただ真っ直ぐに伸ばされる手。泥臭く、泥の匂いすらする手。


灯陽の胸の中で、長い沈黙が揺れた。逃げ癖が染みついた自分への軽蔑。だが同時に、初めて誰かから与えられる信頼のようなものが差し込むのを感じた。


ゆっくりと、灯陽は手を伸ばした。指先が触れた瞬間、冷たかった世界の輪郭が少しだけ滲み、彼の中の何かが暖かく満ちるのがわかった。


「……分かった」


声は掠れていたが、震えは収まっていた。


「俺は、お前を使う。恥ずかしくても、みっともなくても、全部を使う!!」


レイの笑顔が、ふっと広がる。焔のように派手ではない、でも確かな光だ。


「ふっ、その意気だ。ーー行くぞ、灯陽。まだ見ぬ舞台が、俺たちを待っている。」


二人は立ち上がる。森の影の中で、遠くに何かがまた動いた──低いうなり。戦いは終わっていない。けれど、灯陽の足取りは先ほどより確かだった。手の中の温もりを、彼は忘れまいと心に刻む。


「では笑え!!灯陽。高らかに。始まりの産声を上げるのだ!!!!」

「えぇ!?ふ、ふはははは……」

「声が小さい!!こうやるのだ!!フハハハハハハハ!」


あ、やっぱアラサーにはきついかも。このノリ。


――――――――――――

しばらく二人であるくと森の奥がまたざわめいた。さっきの群れとは違う、もっと大きく重い気配。


「下がっていろ。我が盟友。」

レイは刀を構える。


木々の間から、巨大な影が姿を現す。3メートルは超すであろうその巨躯に群れを率いるその威容は、まさしく狼の王と呼ぶにふさわしい威圧感だ。


「ほう。王が自ら出てきたか。――面白い。」


「抜錨。 終焉虚界神剣(カオス)

レイの手に剣が発現する。烈風が吹きすさんだ。


神断ちの剣。レイ=アルカディア最強の剣。

主人の意のままに現れ、意の者を斬る魔剣。

現れるだけでこの威圧感。迫力。


圧倒的な暴、破壊を感じる剣だ。


「では」


レイは魔力を放出した。とてつもない大きさだ。


「焼き尽くす。終焉黒炎覇王斬ジ・エンドダークフレア!!」


黒き焔の斬撃。


森は攻撃範囲が灰燼と化し、敵の軍勢は跡形もなくなった。


「まあ、こんなものだな。」


レイが構えを解いた。

土煙が止む。


「なんだと!?」


やつはまだ生きていた。


獣は咆哮一つで周囲を震わせ、山々に響く。仲間を次々に呼びさらに攻めてくる。

やつは硬い毛皮を持つ。焔の類いは威力が薄いのかも知れない。


ふと。既視感。


そのとき、景色の向こう側で、何かがひらめいた。頭の奥で、ページがめくれるような既視感。断片的な記述、稚拙な文字列、俺が書いたはずの一節が、ふっと甦る。


「影狼王……グリム=フェンリル!!黒焔耐性、群れの統率、弱点は喉元の白紋だ!」


思わず叫ぶ。レイが一瞬こちらを見て、わずかに笑った。


「任せろ。」


レイの姿が揺らぐ。

次の瞬間、黒い残像が走った。

黒影穿(シャドウ・ピアス)


正確に喉元の白紋を狙い突いた。獣は最期に低い唸りを上げ、崩れ落ちる。森に血の香りと、焔の残り香が漂った。


「灯陽!!俺とお前の初勝利だ!!勝利の美酒に浸るとしよう!!楽団よ!凱歌を奏でよ!!ふはははははは!!」

奴は高らかに笑う。


「はは……。大げさだよ、こんな敵で……。」


敵の方を見る。?何かが光っている。


「何だこれ。」


「ふむ。戦利品に興じるとするのもよし。灯陽よ、何か発見はあるか?」


「……。これ」


倒した亡骸に近づくと、何か固いものが喉の奥で光っていた。薄い黒色で、鉱石のように不自然な光沢を放つ小さな結晶。手で掴んでみると、冷たい硬さがあり、見たことのない模様が刻まれている。


レイはそれを手に取り、眉を細める。金の瞳が一瞬だけ真剣になる。


「妙だな。記憶よりも強い個体だ……お前、これを書いた記憶はあるか?」


「書いてない。こんなの、書いてないんだ。」


顔が熱くなる。胸の中の既視感が、逆に不安に変わる。—俺が書いた世界だと思っていた。だが、ここにある何かは、俺の筆跡だけでは説明できない。


「灯陽。預言書は持っていないのか?」


「預言書?ああ。俺の描いたノートのことか。そんなの持ってるわけ無いだろ……。」


「いや?お前の近くに先ほどまでそれはあったはずだ。匂うぞ。」


……記憶をたぐる。いや。あった。

最初に迷い混んだとき持っていたかもしれない。


「いや。あった。最初だ。」


しかし、俺は手ぶらで森を走っていたんだ。

見つかるわけがない。

ヒント無しで俺はこの世界を攻略しなければならないのか……。?


「それだけ解れば十分だ」


バッと姿が消えた瞬間。


「もうなくすなよ。」


レイが戻ってきた。手には黒いノート。これだ!!


「この森だけならば足だけで十分だ。」

この広大な森でローラー作戦!?マジかよ。流石勇者。


俺は貰った預言書を開く。

「影狼王グリム=フェンリル、あった。いや。書いてないぞ、そんなこと。」


「そうか」


レイは結晶をゆっくりと見つめ、やがて空を見上げた。森の奥の方で、風が違う音を立てる。木々の根元にひかれた影のような幾何学模様が、一瞬だけうごめいた気がした。


「ならば、これは誰かが補っているということか」レイの声は低い。怒りとも好奇ともつかない色を帯びている。


俺はノートを胸に抱きしめる。もしかしたら、俺の世界は誰かに書き加えられている。あるいは、書かれていないページが自ら育っているのかもしれない。どちらにせよ、何かが動き始めている。



「っていうか!これがあれば異世界とか楽勝じゃん!!知識チートできるじゃん!!」


「うむ。預言書故な、ここにあることは世界の真実なのだろう。」


「そうだろ!!なんか宝の地図とかねえかな!!」


そういって俺はグリムフェンリル以外の情報を漁ろうとした。

しかし。


「……あれ。は!?読めない!!」

なぜか読めない。文字が文字化けしていて預言書が全く読めなくなっている。


その瞬間。世界が逆転する。


文字が肥大化して山よりも大きくなる。

その文字は巨大な口を開けて俺の眼前に迫る。


文字に喰われる。


俺の眼前に見えた、大きな


死。


「離れろ!!!」


危ない。どうにか戻って来れた。あいつが離してくれたおかげだ。


「これは呪いの類いだ!!見る者を食らう呪いだ!!そいつから手を離せ!!」


俺は手を離す。すかさずレイが魔力でそれを押さえる。


「ええい!!とどまれ!!預言書に巣くう呪いよ!!閉じよ!!閉じよ!!我が魔力の前にひれ伏せ!!うおおおおおおおおお!!」

ボン!!という音がして預言書は閉じた。


静寂。一瞬の間。二人は見合う。


「フハハハハハ!!レール通りの人生などつまらんということか!!」


「笑い事じゃないよ……。ったく、これからどうすればいいんだ。」


ということは呪いが解けるまで預言書チートは使えないのか。不便だなぁ。

これを使えば金銀財宝、酒池肉林。ありとあらゆる願いが叶ったというのになぁ。


ふと、レイをみると。


「では、これはもう不要だな。」


黒焔。


「は!?おい!!何してんだよ!!」


「俺は“書かれた通り”には動かん」


ノートは塵と化した。

灯陽、絶句。


「灯陽。これで俺たちはまた一つ神に打ち勝った。神も今頃悔恨のあまり血涙を流しているだろう。」

にやりとするレイ。


「してるかよ……。」

本当に俺達はこれで預言書なしでこの世界を進まなければならなくなった。


レイはかぶせるように言う。

「案ずるな。世界は我らの舞台だ。」


戦いは終わっていない。だが今日、確かなことが一つだけ増えた――俺はただの読者ではない。この世界を必死で生きる一人のサバイバーになったのだ。まあレイもいるが。


そして、俺は見た。預言書の端。普通なら見落とすであろう端の文章。そこには、「この世界の裏側に一つだけ願いを叶える秘宝あり」と。これがあれば帰れるかも知れない。


「行くぞ、灯陽」レイが肩を組む。彼の笑いは今日も破天荒で無茶苦茶だが、その中に確かな約束がある。俺はその手を握り返した。


行こう。世界の裏側。


一体どこにあるんだ。教えてくれ。中学時代の俺。


――――――――




第一話を読んでいただきありがとうございます。

中学時代の黒歴史が現実になったら、という話を書きたくて始めました。

灯陽とレイの物語をこれからも見守っていただけたら嬉しいです。

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