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不滅のリーパーキング  作者: 柳原ミツキ
第一章

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狂気と辛勝

趣味の悪い服からいつもの普段着に着替え、少女はある部屋に向かっていた。

なんども通った、迷路のように入り組んだ廊下を無意識に進んでいく。

さきほどの出来事を思い出しながら歩いていると、いつの間にか目的地についていた。


部屋の中に目を見やると明かりはついておらず、多数のモニターの光が薄暗い部屋をぼんやりと照らしていた。

モニターの前には白衣の男が立っており、ぶつぶつと独り言をつぶやいている。


「博士。最後の一人を送り終わりました」

少女は白衣の男の背に向かって言葉をかけながら、部屋の中へ歩を進める。

「......ああ、被験者番号F63番か。ごくろう」


白衣の男は少女を一瞥し言葉の主を確認すると、またモニターへと視線を戻した。

そんな男の態度に少女は苛立ちを隠せずに苦言を申し立てる。


「あの、前から何度も言ってますがあなたが付けた番号で呼ぶのをやめてください。不愉快です。私には親からもらった大事な名前、ノーニャ・ローランドという名前があります。」

「それに......」と、少女もといノーニャは言葉を続ける。


「ごくろう、じゃないですよ!いつものあれ、ください。忘れられたら私死んでしまいます」

そういってノーニャは右手を差し出し、博士に催促する。

「......そうだったな。そういう契約だった。少し待っていてくれ」


そう言うと博士は部屋の奥へ進んでいき、やがてその姿が見えなくなった。

ノーニャはため息をつきながら、博士の姿が見えなくなったのをいいことに愚痴をこぼす。

「まったく......あいつ、ほんとに研究以外のことに脳のリソース割かないんだから。私がなんで手伝わされてるか、忘れてないでしょうね?」


その後も日頃のストレスをモニターへぶつけていると、ふと気になるものが目に映った。

「......なに?こいつ。私が送った奴の中に、こんな人いたっけ......?」

モニターの中に映る黒いローブを羽織る人物を訝しげに眺めていると、


「ほら、薬だ。......なにか気になることでもあったか?」

そういって薬を手渡してくる博士。

「ありがとうございます。......この人についてなんですけど、少し妙なんです。私が送ったのはみんな男だったはずなのに、この人、女なんです」


博士はノーニャの指さす先に映る黒いローブを羽織る人物に目をやり、眉をひそめる。

「......本気か?体型からして男だと思うが」

「......女の勘ですが、間違いなく女性です。しかもかなりの手練れとお見受けします」


そういって自信満々に答えるノーニャに、博士はため息をつく。

「勘か......。私はそういう不確実なものに頼るのが嫌いなんだ。研究者として科学的根拠に基づく指摘なら聞き入れるが、ただの勘で実験を中止するわけにもいかん。......それに成功例D42番を潜入させている。イレギュラーが起きても問題はない」


自分の意見を無碍にされ、形のいい唇を尖らせるノーニャ。

「左様ですか。......でしたら、私はこれで」

そういって研究室を後にしようとするも、ふと立ち止まり、博士の方へ体を向ける。


「例の約束、忘れてないですよね?」

「ああ、もちろんだとも。次の『適合者』が現れ、私の元へ連れてきたなら君と姉の自由を約束しよう。......多少の制限はつけさせてもらうがね?」


そういって妖しい笑みを浮かべる博士を背に、「約束ですよ」と言って部屋を後にするノーニャ。

扉を閉め、迷路のような廊下を迷いなく歩き自室へ戻る。その足取りは、わずかに軽かった。

「もう少しだからね、お姉ちゃん。......今回はうまくいくといいな」


薬を飲み、戦場を駆ける姉へ思いを馳せるノーニャ。世界でたった一人の家族。......自分のせいで、辛い思いをさせてしまっている家族。

ノーニャにとって、この実験の成功は束縛からの解放を意味し、なにより切望するものだった。


「例え何人死んだって構わない。私の両手は、とうに真っ赤に汚れている」

自身の手で何人も実験場へ送り出した。皆、適合できずに死んでいった。私が、殺したのだ。何の罪もなく、ただ連れてこられただけの善良な命を、この手で.....


「う......ぐ......おぇぇ」

急激に吐き気がこみ上げ、トイレへ駆け込み吐瀉物を吐き出す。ビチャビチャと胃液が口からこぼれ、酸っぱい匂いが口腔を満たした。

「.....大、丈夫。一人になんて、させない...よ。どこへ行くのも、何をするのも、......地獄に行くのだって、ぜーーーんぶ一緒だからね。......大好きなお姉ちゃん」


愛する姉へ想いを馳せ、ベッドへ転がり込む。

寝る前に嘔吐するのがいつからかノーニャの就寝ルーティンになっていた。

目を閉じ、思考を手放そうとするもあることが引っかかり睡眠を邪魔してくる。


「あのモニターに映ってた女、実験をめちゃくちゃにしないでしょうね....?」

不安材料があると寝付けないのは昔からだ。そんなとき、ノーニャは決まってある行動をする。


「すぅーはぁーすぅーはぁー。ゴホッゴホッ...すぅーはぁー。あぁ、お姉ちゃんの匂いぃぃぃ!!た、堪んないぃぃ!!!」

姉が戦場に行く前、泣きつくノーニャに困った顔で、「私だと思って大切にしろ」と渡されたハンカチ......ではなくこっそり盗んでおいた洗っていない下着をクンカクンカとかぎ、精神を安定させるノーニャ。


「......ふぅ。いつもありがとう、お姉ちゃん。......おやすみ」

そう言って下着へ口づけし、満足げに口角を緩ませる。

そうして、どうしようもないシスコンは意識を手放し、深い眠りへ落ちるのだった......




実験開始から、2日が経とうとしていた。

被験者たちは生き残るためパーティを組み、魔物を退けながら物資を漁り、なんとか命をつないでいた。そんな中ダインは何をしていたかというと......


「......ちっ。ろくなもんが残ってねえな」

他のパーティがあさり終わった後に残った物資を回収し、なんとか命をつなぐハイエナと化していた。


他の被験者がわざわざ食べないような硬いパンに、味のないトマト缶をかけて食べる。

これが今日一日分の食事だ。


「はぁ~腹減った。まずい飯には慣れてるけど、一日一食ってのが辛いな」

むなしく響く腹の音を聞きながら、ダインはぐったりと木にもたれかかる。

実験開始から初日、始めはダインも魔物討伐に積極的で、あわよくばヒントを探そうと走り回っていた。しかし、


「あいつら頸動脈切っても心臓刺しても死なないの、生物としてどうなのよ?」

ダインはこの実験場に放たれている魔物、リーパーの異常な生命力に体力を削がれ、潜伏...もといハイエナを余儀なくされていた。


実際ほかのパーティの戦闘を見る限り、彼らも戦闘班と物資回収班にわかれリーパーを破壊し、再生しているうちに物資を入手し撤退しているようであった。


しかしまれに再生しなくなる個体もおり、物資箱の周りにリーパーがいない状況になるとダインはハイエナのごとく物資を漁り、食料を得ているのであった。


「これじゃあゴールを目指す前に空腹で野垂れ死ぬぞ......。それもこれもあのくそ女のせいだ...!!」

大穴へ突き落した張本人、ノーニャへの怒りを燃やすダイン。空腹も相まって無性にイライラする。


「次会ったらまじで容赦しねぇ...!!泣いて喚いて許してくださいと懇願するまで、その無駄に育った体をめちゃくちゃに....」

「わああああああああ!!!た、助けてくださああああああい!!!」


ノーニャをどう辱めてやろうかと妄想を展開するダインに、一人の青年が助けを求めて走り寄ってきた。

「うわっ、びっくりしたぁ。一体何が......って嘘だろおお!?」


青年の後ろを見ると、黒い鱗で覆われたオオカミの形をしたリーパーが二体、こちらへ向かってきていた。

「お、お前ふざけんなよ!?こっちに魔物引き寄せてくんじゃねえええええ!!!」

「ごめんなさいごめんなさい!!でも僕、もう走れなくて......!!」


息も絶え絶えに、青年はダインに助けを求める。よく見ると彼の腕やひざには引っかかれた跡があり、服もボロボロだった。背中に携えた2mを超える大弓は、彼の逃走を妨げる要因であることが見て取れる。


......大方予想がつく。身動きのとりずらい後衛職を囮にパーティーは逃げたのだ。... つまり、こいつも裏切られた人間ということになる。そんな人間を、ダインが放っておけるわけもなかった。

リーパーは二体、こっちも二人。なんとかならない数じゃない。


「......ったく!!おいお前!俺が左の一匹をやるから、右の一匹を狙え!」

「は、はい!」

そういい終わると同時に走り出し、ダインは左のリーパーに向かって短剣を振り下ろす。

「うおおおおおお!!!」


威勢のいい雄叫びとともに、リーパーの脳天に短剣が突き刺さる......直前に躱され、振り下ろされた短剣が空を切る。

もう一匹のリーパーがダインめがけて突進し、鋭利な牙で噛みつかんとする。


「!?......させっかよ!!ぐっ......!!」

想像以上の力にひるみながらもなんとか右手に持った短剣で攻撃をいなし、右足でリーパーを蹴り飛ばす。


「田舎の人間なめんな!!日々の農作業で意外と鍛えられて......って痛っっ!!」

左のリーパーが鋭利な爪で左腕を裂き、ダインは苦痛に顔を歪める。斬りつけられた腕から血が噴き出し、ベージュ色のシャツを赤く染め上げる。


ダインの腕を傷つけたリーパーは再び斬りつける機会を伺い、ゆっくりとダインとの距離を縮めてきており、蹴り飛ばした右のリーパーはよたよたと立ち上がり、再びこちらを攻撃せんと鋭い眼光でこちらを射抜いてくる。


嫌な汗が額に浮かび、鋭い痛みに意識を持っていかれかけていると、

「お待たせしました!恩人殿!!」

そういって青年はつがえた大弓を限界まで引き、不可避の矢を放った。

凄まじい速度で空を飛ぶ矢は一瞬にして右のリーパーの頭に直撃し、吹き飛ばした。


「おおおお!!やるじゃねえかお前!!あとは俺に任せろ!!」

そう言ってダインは自身に痛みを与えた張本人に向かって走り出し、逆手持ちに切り替えた短刀をリーパーの頭目掛けて振り下ろした。


揶揄うように、先ほどと同様左に回避したリーパーの首元に、寸でのところで方向を変えた刃の切っ先が突き刺さる。

「こっちは回避される前提で動いてんだ!二度も外すかよ間抜け!!」


渾身の力を込めて短刀を振り切り、リーパーの体内へと深く突き刺していく。

苦しそうな鳴き声を響かせたのち、リーパーの体は霧散した。


「えっ...こいつ、消える個体だったの?」

困惑するダインの耳に、慌てた青年の声が響く。

「気をつけて恩人殿!さっきのやつが再生しています!」


青年の声に導かれ右のリーパーへ視線を向けると、吹き飛ばされた頭がボコボコと回復し今まさに元通りになろうとしていた。


「何度見ても気色悪い再生方法だな......完全に再生しきる前に、殺す!」

あのリーパーを殺したからか?なんだか痛みが引いてきたような気がする。

ダインは調子よくリーパーに向かって駆け出し、先ほどと同様短剣を突き刺そうとしたその時、

「......!!恩人殿!!」

「ぶっっ......!!......ぐぁ!!」


凄まじい衝撃が左上半身を襲い、吹き飛ばされた体は木に激突し地面に転がった。

一瞬のことで何が起こったかわからなかったが、そのあと襲ってくる猛烈な痛みで攻撃されたのだと理解する。


熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。

左腕、左横腹に走る強烈な熱に涙がこぼれ、嗚咽をもらす。

涙でぼやけた視界には、先ほどとは違う黒い鱗で覆われた熊のようなリーパーが映っていた。


自分の体におそるおそる視線を向けると左腕は拉げてあらぬ方向へ曲がっており、硬い地面には朱色の液体が広がっていた。


「恩人殿ぉ!!!」

青年は悲痛な叫びをあげながらも弓を引き、もう一匹のオオカミ型リーパーの首を正確に射抜いた。


リーパーが霧散したことに安堵したのも束の間、浅く呼吸をするダインに向かってゆっくり歩く熊型リーパーに息をのむ。


大弓の装填には時間がかかるので弓を引くより早く、リーパーの爪がダインの首を飛ばすだろう。

青年は慌てた様子で、手に持つ大弓とこちらを交互に見ている。


ドシン、ドシンというリーパーの足音がだんだん大きくなり、自身の終わりを強く意識する。

くそっこんな体じゃ、もう立つこともできねえ。剣を振るうなんざ猶更無理だ。

......詰み、か。


体が熱で支配され、もうほとんど意識はない。

瀕死のダインの意識が途切れる寸前、青年の叫びが意識を現実に引き戻した。


「う、うおおおおおお!!!」

青年は弱弱しい雄叫びをあげ、落ちていた小石を投げつけた。

頭にぶつけられたリーパーはダインの方を向いていた体を青年の方へ向け、不機嫌そうに鼻を鳴らす。


……もう、逃げろよ。お前だって、仲間に裏切られたんだろ?どうせ俺はもう助からない。

出会って数分の相手なんか見捨てて、さっさと逃げちまえよ。


「ど、どうです?ムカつきました?......ね、狙うなら、僕にしろ......ってあれ?」

青年の目論見とは裏腹に、リーパーは再びダインに向かって歩きだした。


「ちょ、ちょっと!僕は美味しそうに見えませんかぁ!?......くそっくそっ!!」

青年は必死に小石を投げ続ける。その間も、リーパーは気にすることなくダインの方へ歩き、ついに目の前までたどり着いていた。

……やめろ。もういい、もういいから、早く逃げろ。


「あああ!!すみません!!!恩人殿!!!くそぉ!!こっちを向けってえ!!!」

青年の悲痛な叫びを聞きながら、ダインは体から命の源泉がドクドクと流れ出るのを感じつつ、やけに鮮明に頭が回っていることに気が付いた。


あいつ、俺のことを必死で守ろうとしてやがる。あって数分も経ってない、どこの馬の骨ともわからぬ野郎を自分の命を懸けて守ろうとしているのだ。


普通、見知らぬ奴を助けるために命を張るか?......いや、俺も同じか。体が勝手に動くんだ。

理屈じゃないんだ、こういうのって。嫌な人間は星の数ほどいるし、どれだけ仲がよくて、そいつのこと信じてても裏切る奴は裏切る。でも、


「俺のことを必死に守ろうとしてるやつぐらい、信用しろよ。ダイン。」

必死に石を投げ続ける青年が目に焼き付き、ダインの闘志に再び火が灯る。

目の前の脅威を排除せんと脳みそをフル稼働させ、有効打を思考する。


考えろ。やつらも無敵じゃねえはずだ。隙さえ作れれば、絶対に倒せる。

それに隙ならあいつが絶対作る。そう、信じることにする。

あいつが隙を作る前提で策を練れ。


......確か、最初の青年の攻撃で頭を吹き飛ばされたリーパーは再生した。しかし、首を狙った俺の短剣と青年の弓矢では再生を始めず霧散した。つまり、リーパーには個体によって消える消えないがあるんじゃなくて......


「こっちを!!向けってえええええ!!!!」

青年は無我夢中で石を投げ切り、ついには矢を手で持ち投げつけた。

その矢に反応したのか一瞬リーパーの意識が青年へと向けられるその刹那を、ダインは見逃さなかった。


「.....っぐ!!っっぉらぁ!!てめえらの弱点は、『ここ』だろ!!」

痛みに悶えながら残された力を振り絞り、右手の短剣をリーパーの首、正確には鱗で覆われた首元にある、一つだけ逆さになっている鱗目掛けて投げ飛ばした。


ダインの命の残り粕が籠った短剣は勢いよく、そして正確に逆鱗に突き刺さり、リーパーは大地が震えるほどの悲鳴を上げた。

しばらくもがき苦しんでいたリーパーであったが、やがて動かなくなりその巨体は空気中に霧散し、消滅した。


「おおおおおおおおお!!やりましたね、恩人殿!って.....大丈夫ですか!?恩人殿!!」

青年の歓声と悲鳴が聞こえるが、もうほとんど聞き取れない。

「......ふっ、なんだよ。ちゃんと期待に応えてくれんじゃねえか」


鮮血を口の端から溢れ出しながら、そうつぶやく。

血を失いすぎた。自分はもうすぐ死ぬのだろう。でも、そんなに嫌な気分じゃない。


「......最後に信じたのが、お前でよかったよ」

そう心の中でつぶやき、大地を駆けこちらへ向かう足音を聞きながら、穏やかにダインの意識は深く沈んでいった......


ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。

少しでも面白いと思ってくれたら、星つけてくれるととっても嬉しいです!

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