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皇太子

 学園に入学して二週間が経ち、無事に打算の目を向けてこなかったクラスの令嬢、令息達と友人になれた。打算の目を向けてきていた令嬢、令息は今も諦めずに声をかけてくるけれど、適当にあしらっている。


 そして、二週間経った今日、令嬢達を私のサロンへ招いて有意義な放課後のティータイムを楽しんでいたところ、招いていない、招くはずもない相手が大きな音を立てて部屋へ入って来た。



「貴様がリリアン・レイエスだな!喜べ、貴様をこのリロイ・フォスターの婚約者にしてやる!」



 何を言っているんだろう、この皇太子(バカ)は。


 失礼にも程がある。前より失礼さが酷い気がするし、バカさ加減も増している気がする。


 しかも、ここがどこだか分かっているのか?男子禁制の私のサロンに堂々と何の断りもなくいきなり入ってきてのあの発言。これが将来この国の皇帝になるなんて、フォスター帝国も終わったなと悟りを開いていると、皇太子に人の話を聞いているのかと怒られた。



「一つ、私は殿下との婚約話は幼少期に断りを入れています。二つ、ここは男子禁制のサロンです。それなのに立ち入って、いきなりのあの発言はいくら殿下でも失礼に値します」

「ええい、うるさい!皇太子の俺に口答えをするな!」

「はぁ…殿下の発言はこの録音できる魔道具に録音しました。父を通して皇帝陛下へ苦情として提出させていただきますね」



 そう言うと、ふざけるなと怒鳴り散らされた。サロンにいた令嬢達は、あまりにも酷い横暴な皇太子にドン引きしている。当然だろう、私自身もドン引きしているくらいだ。


 どうやったらこんな横暴に育つのだろう。第二皇子は紳士的で文武共に優秀な方なのに。同じ育ち方をしてこうも差があるなんて、不思議で堪らない。


 そもそも、何故皇太子は突然私を婚約者にするなんて言い出したんだ?


 皇太子の意図が分からなくて怒鳴っている皇太子を無視して色々と考えていると、同じ公爵令嬢のカテリーナ嬢が声を上げた。



「殿下、いい加減になさってくださいませんか?男子禁制のサロンにいきなり押し入ってきて婚約者にしてやるなんて失礼を言った挙句、断られた途端に怒鳴り散らすなんて王族の品位が疑われる行為だと分からないのですか?」



 迷惑だと非難するような目を皇太子に向けたカテリーナ嬢に、皇太子はさらに怒りを露わにした。だけど、従者に止められて仕方なくと言った様子でサロンから出て行った。


 嵐が去ったことにふぅ…と一息ついて、カテリーナ嬢にお礼を言った。



「お気になさらないでください。王家の人間に意見を言えるのはこの場では公爵家のリリアン様か私でしたから。他の令嬢が言っていたら、あの皇太子は何をしでかすか分かったものじゃありませんしね」

「ああ、確かに…そうですね」



 死に戻る前、意見した伯爵令嬢を気に食わないと言って嘘の醜聞を言いふらしていじめ倒し、貴族社会全体にその醜聞が回ってしまったせいで婚約者に婚約破棄され、最後は修道院送りになった伯爵令嬢がいた。


 それから、皇太子に意見をすると伯爵令嬢のようになると思った令嬢、令息は皇太子に意見をしたりせずに従順になっていった。


 今思い返すと、皇太子は学園で大分好き放題していたなと思いながら、皇太子のせいで台無しになったティータイムの雰囲気をどうにかしようと行動に移した。



「せっかくのティータイムにお邪魔が入ってしまいましたね。冷めてしまったでしょうし、新しく淹れ直しましょう。スイーツのおかわりもいかがですか?」

「いただきますわ」

「私も、いただきます」

「あら、このスイーツって…!」

「今話題のパティシエが作っているロールケーキだわ!」

「しかも、人気のいちごを丸ごと使っているロールケーキ…!噂通り断面が綺麗ですわね」



 気まずい雰囲気が流れていたサロン内は、アランが持ってきたロールケーキの登場で元に戻った。そのことにホッとして、アランが淹れ直した紅茶を一口飲んだ。


 切り分けられ渡されたロールケーキを令嬢達はキラキラとさせた目で少し眺めた後、フォークを刺して口に運んだ。


 すると、よほど美味しかったのだろう。全員顔に出ていて、幸せそうだなと思った。真顔が基本のカテリーナ嬢も他の令嬢と同じ顔をしていて、可愛いと自分の口角が上がるのが分かった。


 皆の様子を見て、もう問題はなさそうだと判断した私は、やっと自分の分のロールケーキのお皿に手を伸ばした。



「噂通り美味しい」

「皇后様も贔屓にしているそうですよ」

「なら、ますますこのロールケーキは入手困難になってレアもの扱いされるのね」



 そうなれば、そうなる前に私のサロンで食べたことが知られた時、サロンへ入りたいと思う令嬢達が増えるだろう。


 そうなった時、入学式の日のように声をかけられて囲まれそうだ。


 今、自分のサロンにいるのは公爵から子爵の令嬢五人で、全員同じクラスの人達だ。私は、これ以上の人を増やす気はないから、もしそうなったらお断りを入れよう。


 諦めきれない令嬢達はいるだろうけど、人が増えるとその分お茶やお菓子の用意や統制が大変だから今の人数くらいがちょうどいい。



「アラン」

「はい」

「お父様は今日お帰りになるのが遅いそうだから王城にあるお父様の仕事部屋にこれを届けて。そして、私が困っていたと報告して」

「かしこまりました」



 録音ができる魔道具をアランに手渡すと、一礼して部屋から出て行った。


 これで、今日中に皇帝陛下に今日のことが報告されてお父様が苦情を言うはずだ。そうすれば、少しは大人しくなってくれるだろう。


 あの皇太子でも、父親である皇帝陛下には逆らえないのだから。

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