17話 支配
「今日な、2組の吉田に教科書貸したんやけど、返ってきたらめっちゃアンダーライン引かれててん。
有り得へんやろ?他人の教科書に普通そんなことする?」
「野島の教科書やったら、俺も同じことするけどな」
「なんで!?俺の教科書、舐められすぎやろ」
「いや、舐められてんのお前やで?」
「ノールックでそんな冷たいこと言うのやめてくれへん?」
「今まで教科書にアンダーラインとか引いたことないやろ? 勝手に重要ポイントにライン引いてくれてラッキーやん」
「ホンマに舐めてるやん。ラインくらい普通に引くわ。
てか、引かれたとこがホンマに重要やったらまだ許せる。
でも吉田が引いたとこ、先生が“ここはさらっとでええからな〜”って言うてたとこやねん。
しかも“ここ出る”ってメッセージまで書いてあんねん」
「先生と自分、どっち信じるかで友情試してきてるんちゃう?」
「なんの駆け引きやねん。
その二択で吉田選ぶやつおらんやろ」
「でも、ほんまにそこが出たらラッキーやん。
頭の片隅に置いといたらええねん」
「いや、そんな量ちゃうねん。
アホみたいに長文なとこ全部ライン引かれてるから、頭の片隅どころかキャパ全部持ってかれるわ。
“ここ出る”の“ここ”って、どこのこと?ってなるくらい真っ赤やねん」
「それは流石に盛ってるやろ。
今その教科書あるん?ちょっと見せてや」
「まじ盛ってないて!
ちょい待ってな……あった。ほら、これ見てみ」
「……ほんまや、こっわ。
てかこれ、よう見たら“ここ出る”やなくて“ここ出ろ”って書いてへん?」
「うわ、ほんまや。
…つまり吉田のただの願望やったん?」
「他人の教科書に思念乗せてくるの怖すぎやな。
てかここも見てみ。男の子のイラストにメガネとヒゲ描き足してるで」
「うわ、自然すぎて見逃してたわ。
てか吉田まじで俺の教科書何や思ってんねん。
……もしかして、これも願望なんちゃう?メガネとヒゲ欲しがってるとか」
「いや、吉田もうメガネやし、ヒゲもまあまあ濃いから違うと思うで」
「じゃあただの落書きか」
「いや、支配やな」
「支配?」
「吉田は教科書を“支配”しようとしてんねん。
まずは色で制圧。ラインで真っ赤に染めて」
「教科書を支配って何なん?」
「さらには試験すら支配しようとしてる。
“出ろ”って言われた問題は、出るしかない」
「出るしかないって何なん?」
「これで出えへんかったら、粛清されるからな」
「問題が粛清されるん?」
「極めつけはイラストの男の子にメガネとヒゲ。
自分以外の存在を、自分の姿に塗り替えることで“支配”しようとしてる」
「ずっと何言ってるん?」
「つまり吉田は“支配の演習”をしてんねん」
「いや俺の教科書で演習すんなや」
「他人の教科書やからこそ、支配の演習にはもってこいやねん」
「なんかもうこの教科書持って帰るの嫌なってきたわ。
吉田が夢に出てきそうな気する」
「そうなったらもう、逆に吉田から教科書借りて“支配返し”するしかないで」
「それ結果的に重要ポイントにライン引けんまま俺の授業終わるやん!テストどうすんねん」
「“ここ出ろ”って祈っとけ」




