13話 靴下
「なんで靴下って片方だけ無くなるんやろなー。
“まあ、あとで出てくるやろ”って思ってても、
一向に出てけえへんしな」
「いや、無くなったことないから全然共感できへんわ」
「嘘やろ?そんなん絶対、松崎ん家だけ守護神ついてるやん」
「うちの守護神、そんなとこまで守護してくれてるん?
守備範囲えぐいやん」
「でもほんま守護神おらな説明つかへんレベルで普通は無くなるもんやねんて」
「野島の事やから、もともと片方だけやったとかちゃうの?」
「俺どんなイメージやねん
ちゃんと最初は両方あるわ!」
「ほな、うちの守護神、貸そか?」
「そんな“シャーペン貸そか?”くらいのノリで神様貸し出すなや」
「1回離れてみんと存在の大きさに気づけへんし、離れる期間あってもええと思ってるねん」
「マンネリカップルみたいな台詞言うやん。
でもホンマ、どこで無くなってるかも分からへんから神の力借りなアカンかもしれへんわ」
「無くなってんのも神隠しちゃうん?」
「え、それも神の仕業なん?
神様たち、靴下への執着すごない?」
「一説によると、靴下の守護神と靴下を隠す神が、洗濯機の中で小競り合いしてるらしいしな」
「神々の争いの中で1番スケール小さいやろそれ」
「脱水中の洗濯機ってたまにデカイ音鳴るやん?“ドコンッ!”って。
あれ神同士の戦闘音らしいで」
「いや、そもそも目的はなんやねん。
守る側はええわ。でも隠す側の神は何したいねん」
「それこそ“神のみぞ知る”やな。
でも、そう思ったら野島ん家の守護神も、片方は守りきってくれてんねんから、むしろ感謝した方がええんちゃう?」
「いや靴下は両方揃って初めてアイデンティティを保ててんねん。片方取られたら、両方取られたも同じや」
「お前、洗濯機の中で靴下守ることがどれだけ大変か分かってへんやろ」
「分かるわけないやろ。そんな特殊なシチュエーション」
「相手が泡に潜んで奇襲してきたり、
遠心力利用して移動してきたり、なかなか守りきるんしんどいんやて」
「隠す側の神、めっちゃトリッキーなことしてくるやん。
そんなん、泡くらい神通力とかで消したらええやんけ」
「そんなことしたら洗濯物の汚れが落ちひんやろが!
そもそもお前が、守護神にお供え物とかしてへんから力弱まって負けてんねん」
「靴下守るのにお供え物必要て、燃費悪すぎちゃう?」
「当たり前やろ。お前の“くさい・汚い・くさい”3K靴下を守るのに無償とか、神様もモチベ上がらんわ」
「…泣いていい?俺そんな臭いん?
3Kのうち2Kが“くさい”って、もう“くさい”が主成分やん」
「守護神も“これはもはや罰ゲームなり”って言うてたしな」
「なんでお前、うちの守護神と交流もってんねん。
何か、お供え物せなアカン気持ちわいてきたわ…でも何供えたらええか分からん」
「そんなん、最初から俺に聞いてくれたらええのに。水くさいわ」
「もう“くさい”って単語つく言葉禁止にしてくれへん?
3Kがフラッシュバックしてつらいねん…
で、何供えたらええん?」
「靴下の片方や」
「結局、片方失うやんけ」