12話 水泳
「野島って泳げたっけ?」
「あんま得意ちゃうけど、泳げるで?」
「おー、ほんならバタフライできる?」
「いや、バタフライはできひんなー。
てか、やろう思ったことすらないかもしれへんわ」
「せやろ?
バタフライって、やっぱ必要とされてないねんな」
「お前それ、なんか敵作りそうやから、ここ以外で言うんやめてな?」
「水泳って、4つの泳ぎ方あるやん?全部言うてみ?」
「クロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライ」
「絶対バタフライ要らんやろ?」
「やめろや。バタフライに何されてん」
「バタフライ以外の泳ぎは、全部ちゃんと利点あるねん。
クロールは速いし、平泳ぎは楽に長く泳げるし、背泳ぎは息継ぎの心配せんでええし」
「まあ、せやな」
「バタフライだけ、全く実利がないねん」
「やめろや!バタフライにだって何かあるやろ!」
「例えば何よ?」
「見ててかっこええやん?水面からバシャー上がってきて、腕もグワッってなって、また水中に消えて」
「その説明やと、溺れてるようにしか聞こえへんねん」
「でも実際、バタフライしてる人って“めっちゃ泳げる人”って感じせえへん?」
「ちゃうわ。泳げる人はバタフライせえへんねん。
仮にやぞ?海に放り出されたとき、誰がバタフライ選ぶねん」
「そんなん、背泳ぎだってせえへんやろ」
「背泳ぎは休憩で使うやろ!
腕あんな回さへんけど、力抜いて休めるやん。
でもバタフライはカロリー消費もえぐいし、
すぐ溺れてまうから誰からも選ばれへん」
「もう、バタフライは“泳ぎ方”やなくて、
“パフォーマンス”やって分けて考えたらええやん」
「こっちは命かかってんねんぞ!」
「こっちって、どっちやねん。
別にお前の命かかってへんやろが!
海ちゃうかったら、見た目重視のバタフライあってもええやんけ」
「お前な…そういう前例認めてしもたら、どんどん見た目重視の泳ぎ方増えてまうやろ」
「別にええやん。何がアカンねん」
「それでカッコイイ泳ぎ方ばっかりが人気でて、他の泳ぎ方が排除されてもうたらどうなるかわかるか? 」
「どうなるねん」
「見た目重視の泳ぎ方しか知らん人が増えて、その人が海に放り出されたとき “助けて!”って言うてるのに
“見てて!”って雰囲気出してる奴になるやんけ」
「たしかに助けたくないな、それは」
「せやろ。だからバタフライは必要ないねん」
「水泳ガチでやってる人おったら角立ちそうやから、やめてな?ほんまに」
「“命よりフォーム”って考え方はやっぱ認めたくないねん」
「別に誰もそんな思想もって泳いでないて。
ただフォームにこだわる余裕があるって、なんかカッコええやん」
「それで沈んだら意味ないやろ」
「沈む時も綺麗なフォームで沈むからええねん」
「まあ…そこまで美意識強いなら、何も言われへんわ」