11話 校長
「あーもう。なんで校長の話ってあんなに長いねん!
全校生徒の“はよ終われや”って表情を真正面から受けて、よう喋れるよな。今日のはホンマしんどかったわー」
「まあ、しゃあないて。
あれは“耐えられるかどうか”のテストやねんから」
「はあ?そんなんこっちはもう授業で疲れきってんのに耐久テストまでされたくないわ」
「いや、“校長自身”の耐久テストや」
「え?どゆこと?自分で自分に課してるん?」
「せやで。
“この生徒の空気に耐えられたら、まだ校長やれる”って
確認してんねん」
「なに全校集会で自己肯定感あげようとしてんねん」
「やから校長も、俺らが憎らしげな顔になるようにわざと空気重くしてんねん。
ほら、“ちょっと長くなりましたが”ってもう終わる雰囲気だしといて、全然終わらんかったりするやろ?
あれもヘイト稼ぎやで」
「あーめっちゃあるわ。
あのフェイントまじで腹立つねんな。
ゴール前でずっとドリブルしよんねん。はよシュート撃てや!俺、まんまと校長の術中にハマってるやんけ」
「あと“最後にひとつだけ”って言うてからが本番やったりするしな」
「それな。あくまで“第一章”の最後なんよなあれ。
ほんで、しれっと第二章が始まんねん。
しかもうっすいエピソードトークやし
アスファルトにタンポポが咲いてて、それを見てどーのこーのや言うて」
「そんなタンポポに教訓を見出すくらい、感受性豊かやのに、生徒の感情は無視してくるところが怖いよな」
「てかこれがホンマに校長自身の耐久テストやったら、短くなることないやんけ。しんど」
「いや、あるにはあるで?攻略法」
「え!あんの?」
「校長が喋り出す前から既に全員が
“憎らしげな顔”でスタンバっとけばええねん。
開幕からヘイトMAX状態なら、校長のヘイト稼ぎトークがなくなるはずや」
「松崎、お前天才かよ。
…いやでも、全員の顔揃えるの難易度高すぎひん?」
「確かに、そこは“憎しみ顔面係”の指揮次第ではある」
「いや“憎しみ顔面係”てなんやねん!」
「最前列で“憎らしげな顔”の見本を提示して、後列に伝播させる役割やん」
「表情でウェーブ起こすん、シュールすぎやろ」
「しかも話が始まってからやと振り向かれへんから、
下手したら“自分だけ表情つくってんちゃうか?”っていう疑心暗鬼とも戦わなあかんねん」
「“憎しみ顔面係”過酷すぎやろ!
自分だけしか、表情つくってへんかったらホンマに憎しみ湧いてそうやん」
「ホンマ過酷やで。表情ミスったら、“ヘイトが足りてへん”って判断されて、校長のタンポポの話が2輪分増えるしな」
「タンポポの話、輪単位で増えるん!?怖すぎるやろ。
アカン…そんな重荷、クラスメイトに背負わされへんわ…」
「なら校長の話は我慢して聞くしかないで」
「…せやな。結局、校長が一番タフやったわ」