10話 起床
「松崎って朝起きる時、アラーム何回かける派?」
「そんなしょうもない派閥あるん?
普通に1回しか、かけへんけど」
「え?そんな一発勝負のギャンブルしてるん?
俺なんか5分おきに7回かけてるで」
「多すぎやろ。複数回かけても、ストレスで逆に疲れるだけらしいし、意味ないねんで?」
「そうなん?でも保険がないと不安やん。
一応ちょっとでも気持ちよく起きれるように
“鳥のさえずり”とか“川のせせらぎ”とかの音にしてるからストレス対策はできてるで」
「それ起きれるん?
むしろ気持ちよく寝ようとしてへん?」
「いや、“川のせせらぎ”聞いたらトイレ行きたくなって起きれるねん」
「そういう起き方なんや。
じゃあ7回とも“川のせせらぎ”にしたらええやん」
「そんなんしたら、ベッドで川がせせらぐことになるやん」
「漏らしてるやん」
「ただ最近、“好きな曲で起きたら気分ええ説”も試してんけど」
「おー、それは有りなんちゃう」
「結果、その曲めっちゃ嫌いになっただけやったわ。もうイントロ聞くだけで腹立つレベルや」
「あるあるやな」
「だから、“ボイスメッセージに起こして貰うのが結局起きれる説”も試してん」
「しょうもない説めっちゃ持ってるな。
どんなメッセージ流してんの?」
「“野島起きろ!お前はやれる!”って録音したやつかけてんねんけど」
「怪しい自己啓発セミナーみたいやな」
「でも効果はあるで。
起きた瞬間“やれる…何を?”ってなるけど」
「録音したんお前やろ」
「でもこういう、自分の欲望に打ち勝たなアカン場面やと、ただの音よりも意味のある言葉のがええと思うねん」
「まあ、それは一理あるな。
それやったら“お前はやれる”みたいな安いフレーズちゃうくて、もっと芯に響くような言葉にせんと」
「安いて…例えばどんなん?」
「“成功者は朝の5分で人生を変えるんや。今、お前が起きるかどうかで、年収・人間関係・自己肯定感すべてが決まるんや。
まずは顔と、その濡れたシーツを洗え。話はそれからや!”とか」
「なんかヘビーやし長いねん。てか何か漏らしてへん?
なんで漏らしてる前提やねん」
「BGMが“川のせせらぎ”やからな。
“もしかして、俺やってしもた?”っていう疑念も目覚ましのスパイスになるんやんけ」
「いやそのスパイス効きすぎてて、前半の言葉の味がせんようになってるねん」
「そもそも目的は起きることやろ?
なに、味を楽しもうとしてんねん。
お前グルメぶってんちゃうぞ!!」
「こっわ。急に何のスイッチ入ってんねんコイツ。
てかそもそもお前が、もっと芯に響くような言葉にーー」
「なあ、野島」
「お前が、もっと芯にーー」
「野島っ!!」
「全ッ然、言わしてくれへん!」
「今お前がするべき事は反論ちゃうねん。
早く寝ることや」
「着地雑すぎひん?」