第7話:騎士と二人きり、誤解されるのはなぜ
──放課後。校舎裏の訓練棟。
「……で、なぜ私が、アランと二人きりでいるのかしら」
「俺にもわからない。だが、鍵が閉まったのは事実だ」
「…………はあ」
無人の訓練棟での自主トレ中、突如、扉が閉まってしまった。
仕掛け式の魔術鍵が誤作動を起こしたらしく、誰にも連絡が取れない。
結果。
騎士アランと私、クラウディア嬢は──密室に閉じ込められてしまったのだった。
(いやいやいやいや、乙女ゲー名物密室イベント来ちゃったじゃないの!!)
もちろん、私は知っている。
このイベント、本来ならヒロインとアランの“距離が一気に近づく”名場面。
だけど今、それに巻き込まれてるのは、私である。
(まって、ほんと無理。これフラグじゃん。完全にフラグじゃん!!)
「クラウディア嬢、大丈夫か? 寒いなら上着を──」
「いえ、結構ですわ。あなたこそ冷えたら困るでしょう?」
気遣いが自然すぎる。距離が近い。
この男、天然で女慣れしてないせいで、無自覚に心を掴みに来る。
そして、案の定。
「……不思議だ。貴女とこうして話すのは、初めてのような気がしない」
「それは錯覚です。絶対にそうです」
「違う。“誰かのために強くなろうとする人間”を、俺は放っておけない。……昔も、今も」
(出た、アラン恒例“過去回想でヒロインとリンク”するやつ!! 私じゃない、ヒロインの役目よそれぇぇぇ!)
沈黙が訪れる。
彼は私を見つめ、ふと視線を落とす。
「……貴女は誰のために力を求めている?」
「……自分のため、ですわ」
「嘘だ。誰かが、そこにいる」
ドキリとする。
セラフ様の存在が、バレてる? いや、そんなはずは──
「貴女が誰かに届かぬ想いを抱いているなら、俺は……」
その瞳が、真っ直ぐに私を射抜いた。
「その孤独ごと、支えてやりたいと思ってしまう」
(やめて!? なんでそうなるの!?)
もう、好感度ゲージが赤く点滅してるのが見える気がする。
どうして……どうして私は恋愛しないって決めてるのに、こうなるの……?
──ガチャンッ。
その時、扉が開いた。
教師が訓練棟の異常に気づいてくれたらしい。
「……助かったな」
「ほんとに……」
心底ホッとする私とは裏腹に、アランは何か言いたげな表情を浮かべていた。
そして、別れ際。
「クラウディア嬢。貴女が“誰も選ばない”というのなら……俺は、選び続ける」
(うっわ……死亡フラグじゃなくて、恋愛バッドエンド直行フラグ立ったやつだこれ……!)
その夜。私は図書塔にいた。
「セラフ様……今日も来てくれないの……?」
誰もいない部屋。仄暗い光の中で、私はぽつりと呟いた。
「……密室にて、他者の手を受けるとは。随分、親密な関係なのだな」
──その声。
姿は見えない。だが、確かに近くに“いる”。
「違います。私は誰の手も取っていません。誰の言葉にも応えない。あなたに……あなたに会うために、誰も選ばないと決めたの」
「……口先だけでは意味がない。“誓い”が必要だ」
その瞬間、氷のような風が吹いた。
視界が染まり、まるで時が止まったかのような静寂が訪れる。
「私のもとへ辿り着くと、君は言った。ならば、誰にも触れずに歩み続けよ。心までも奪われることなく」
「……誓います。私は、あなたに辿り着くまで、誰にも心を渡しません」
「……ならば、次の門を開くがいい」
仮面の男の姿が、ほんの一瞬、すぐそばに現れた。
手を伸ばせば届きそうな距離。
けれど、触れてはならない。
だって、私はまだ“試されている”から。
──だから、私は誓った。
この心は、もう誰にも渡さない。
どれほど惹かれても、想われても。
私が愛するのは、ただ一人。
“選ばれなかった者”である、あなた。