第4話:魔法試験と失敗と、仮面の気配
季節は春。王立アストレイア学園では、新年度最初の魔法実技試験が行われようとしていた。
魔力量の評価は「E」から「SSS」まで。
私は現在「D」。条件クリアには「C」以上が必要。
今回の試験で上がらなければ、また時間をかけて基礎から鍛え直さなくてはならない。
(ここで決めるしかない……)
試験内容は、指定された魔法陣に合わせて正確な詠唱と属性発動を行うというもの。
私の属性は【氷】。静かで、しかし制御に繊細さを求められる魔法。
私は深呼吸し、魔力を集中させた。
「――霜よ、裂け目を包み、静寂をもたらせ。〈フリギドゥス・クレス〉」
魔法陣が光を帯び、氷の矢が浮かび上がる。
それを制御し、的に当てる──だけのはずだった。
だが、
「っ……! まずい、魔力の流れが──!」
魔法陣が暴走した。
氷の矢が意志を持ったかのように暴れ回り、試験会場を凍らせていく。
「全員、退避!! クラウディア嬢が危ない!」
騎士アランの怒号が響いた。
彼が私に駆け寄る──その瞬間、私はとっさに叫んだ。
「来ないで! これは私の魔法、私が止める!」
来たら、また好感度が上がってしまう。
いや、ちがう。
……それ以前に、これ以上、誰かに助けられたくない。
私は“彼”に会うため、自分の力でここまで来たんだから。
「――氷結の陣、反転!」
再詠唱で魔力を逆流させる。
身体の奥が冷えきるような痛み。視界が滲む。
でも、やらなきゃ。
この試験に合格しなきゃ。
セラフ様に……近づけない……!
その瞬間、氷が静かに砕けた。
氷の粒が宙に舞い、まるで祝福のように光の中へ消えていく。
「魔力、収束……!? あの術式、学生のレベルじゃないぞ!」
教師たちがざわめく中、私はよろめきながら立っていた。
「……っ、ふ、う……はぁ……」
「クラウディア嬢、大丈夫か!? 無理をするな!」
アランが走ってくるのが見えた。
その背後には王子レオンと、執事ユリウスの姿も──
(近づかないで、お願い、近づいたらまた──!)
私の視界が、ふっと暗くなった。
その刹那。
どこからともなく、低く、震えるような声が聞こえた。
──ようやく、ここまで来たか。
仮面。
黒衣。
銀の瞳。
そして、誰にも気づかれず、私の前にだけ現れた影。
『選ばれなかった者よ。その執念に、応えよう』
誰もいない天井を見上げる。
……けれど私は、そこに確かに彼を見た。
「……セラフ様……」
小さく名を呼んで、私はそのまま意識を手放した。