第2話:恋フラグ無視生活はじめました
攻略キャラの好感度を上げない。
ヒロインとくっついてもらうよう、裏で支援する。
私が恋愛フラグに引っかからないよう、あくまで“努力家な悪役令嬢”として静かに生きる。
──完璧なプランだったはずなのに。
「クラウディア嬢。剣の型、少し乱れている」
鋭い声にハッとする。
振り向けばそこには、騎士アラン・グレイフォードが立っていた。
青い軍服姿、短く刈り揃えられた銀髪に、淡い灰色の瞳。
彼はこの王国で最年少で近衛騎士の資格を得た実力者で、ヒロインの幼馴染でもある──本来なら。
「あ、あら。見学者がいると緊張してしまうわ」
「見学じゃない。訓練を見守っていたんだ。貴女は魔法だけでなく剣技も修めているらしいから」
(えっ、なにその好感度が上がりそうなセリフ!?)
「ええ、体術は基本ですもの。魔法詠唱中に敵が接近した場合、回避も反撃もできなければ意味がないでしょう?」
「……その意識、高く評価する。だが、無理をしてはいけない」
アランがこちらに一歩、近づいてくる。
その手には、私が使っていた木剣があった。
「刃が欠けている。これでは訓練にならない。……私のを貸す」
「け、結構ですわ! それ、貴方の大事なものではなくて?」
「いい。貴女が怪我をしたら、それこそ問題だ」
(やめてやめてやめて!! その台詞、フラグすぎます!!)
どうしてこうも……気づけば私の周りの攻略キャラたちが、自然と好感度を上げてくるの?
ヒロイン、どうしたの? 本来なら今頃あなたとアランの友情イベントが発生してる頃なのに!
「……クラウディア嬢」
「な、何かしら」
「俺は……貴女が“誰かのため”に動いていることを、知っている。魔法の訓練も、本の研究も、ただの趣味ではない」
ドキリとする。
まさか……何か気づかれた?
「貴女は、誰かを救おうとしている。俺はそう感じた。……違うか?」
「…………それは……」
(まさか。まさか、セラフ様のことを知って──いや、ありえない。あのルートは完全に封印されてるはず)
「……あなたの勘違いよ。私はただ、自分のために努力しているだけ」
「……そうか」
アランは静かに頷いた。
──その瞳に、微かな笑みが浮かんでいたのを、私は見逃さなかった。
(あああ、やっぱり好感度上がってるううう!?)
その日の訓練後。私は疲労と焦りでふらふらになりながら図書塔へと向かった。
静かな石造りの螺旋階段。誰もいない空間に、魔力の気配がふっと流れる。
「……セラフ様」
名を呼んでも、返事はない。
だけど、空気がわずかに震えた気がした。
まだ──間に合う。
彼に出会うチャンスは、きっと残されている。
「絶対に……絶対に、恋愛なんかしてたまるもんですか……っ!」
私は決意とともに、また一冊、難解な魔導書を手に取った。